第4話:悪役の流儀(ヒール・スタイル)
「オラァッ!!」
轟田のラリアットが炸裂した。
先頭にいたゴブリンの首があらぬ方向に曲がって吹き飛ぶ。
まるでボウリングのピンだ。
吹き飛んだゴブリンは後続の数匹を巻き込みド派手な音を立てて地面を転がった。
「ギャッ!?ギィィッ!?」
ゴブリンたちがパニックになる。
突然現れた黒パンツの巨人は彼らの知る「人間」の動きではなかった。
剣も魔法も使わない。
ただの暴力的な肉の塊だ。
「カッカッカ!どうした三下ども!ステップが止まってるぞ!」
轟田は笑いながら近くにいたゴブリンの足を掴んだ。
そのまま軽々と振り回す。
「人間ハンマーだァ!!」
ドゴッ!バキッ!
仲間を鈍器として叩きつけられ他のゴブリンたちが粉砕されていく。
凶悪すぎる戦法。
畑の隅で震えていた村人たちがゴクリと喉を鳴らした。
「す、すげぇ……」
「あいつ一人で群れを圧倒してやがる……」
その瞳に畏敬の念が混じり始める。
まずい。
轟田の背中に冷たい予感が走った。
圧倒的な強さを見せすぎると観客(村人)は恐怖を通り越して「頼もしさ」を感じてしまう。
それは「感謝」への入り口だ。
(チッ、素人はこれだから困る。俺はヒーローじゃねぇんだよ!)
轟田はゴブリンを投げ捨てわざとらしく村人の方を振り返った。
「おいテメェら!ボサッと見てんじゃねぇぞ!」
「ひっ!?」
「俺様のショーは『参加型』だ!俺様がゴブリンを押さえててやるからテメェらが石を投げてトドメを刺せ!日頃の鬱憤を晴らすチャンスだぞオラァ!」
轟田は残りのゴブリンを羽交い締めにし村人たちに差し出した。
残酷な提案だ。
だが村人たちの目から「頼もしさ」が消え、困惑とそして微かな「嗜虐心」が灯る。
「や、やれって言うのか……?」
「俺たちの畑を荒らしやがって……!」
一人の若者がおっかなびっくり石を投げた。
ゴツッ。
ゴブリンに当たる。
ゴブリンが情けない声を上げた瞬間若者の表情が変わった。
「こ、この野郎!死ね!」
一度タガが外れれば集団心理は早い。
「殺せ!」
「作物を返せ!」
村人たちが一斉に石や土塊を投げ始めた。
その何割かはゴブリンを押さえている轟田にも当たっている。
「痛ってぇな!どこ狙ってんだヘタクソ共!」
《敵対行動、および暴力を確認。防御力上昇(中)》
轟田はニヤリと笑った。
いいぞ。
彼らは今「轟田への恐怖」と「ゴブリンへの怒り」をごちゃ混ぜにして発散している。
これなら「守ってもらっている」という意識は希薄になる。
その時群れの中から一際大きな影が現れた。
身長2メートル近いホブゴブリンだ。
手には錆びついた大剣を持っている。
「グガアアアアッ!!」
ホブゴブリンが大剣を振り上げた。
村人たちが悲鳴を上げて下がる。
「おっと、メインディッシュのお出ましだな」
轟田は素手で前に出た。
大剣が振り下ろされる。
轟田は避けない。
胸板でそれを受けた。
ガギィィンッ!!
金属音が響き錆びた刃が半ばで欠けた。
村人からの投石で硬化した今の轟田にとってなまくらな剣など爪楊枝以下だ。
「……弱い。弱すぎる」
轟田は呆れたように首を振りホブゴブリンの腕を掴んだ。
「テメェみたいな中途半端なヒールじゃ客は呼べねぇよ」
轟田は敵の体を軽々とリフトアップした。
アルゼンチン・バックブリーカー。
背骨がミシミシと音を立てる。
「ギ、ギャアア……!?」
「もっと悲鳴を上げろ!客(村人)が喜んでるだろうがァ!!」
バキンッ!!
乾いた音が響きホブゴブリンがぐったりと力を失った。
轟田はそれをゴミのように投げ捨てた。
戦闘終了。
静寂が訪れる。
村人たちは呆然と全滅したゴブリンとその中心に立つ悪魔のような男を見つめている。
やがて村長らしき初老の男が震えながら歩み寄ってきた。
「あ、あの……」
その目に浮かんでいるのは恐怖か、それとも感謝か。
轟田が身構えた瞬間背後からアリスが早口で割り込んだ。
「さあ村長さん!約束通り報酬をいただきますよ!」
アリスは轟田の前に立ち、腕組みをして村人たちを睨みつけた。
「まさか『命の恩人だからまけてくれ』なんて言わないでしょうね?この男は強欲なんです。契約は絶対ですよ!」
その言葉で村人たちの空気が「安堵」から「緊張」に引き戻された。
そうだ、こいつは救世主じゃない。強請り屋だ。
「わ、分かっております……。約束通り食料庫の肉と酒を……」
村長たちが慌てて倉庫へ走り保存肉の樽と酒瓶を持ってきた。
冬を越すための貴重な食料だ。
それを見た村人たちの顔が歪む。
「全部持っていく気か」「ひどい」という視線。
《敵対感情を確認。精神力回復》
「カッカッカ!シケた肉だが、まあ貰ってやるよ」
轟田は樽を軽々と担ぎ上げた。
そして去り際にわざとらしく足元の死体――ホブゴブリンを蹴飛ばした。
「こんな汚ねぇ死体、さっさと片付けろよ。臭くてたまらねぇ」
轟田とアリスは、村人たちの冷ややかな視線を背に、悠々と村を出て行った。
◇
村が見えなくなってから轟田は街道沿いの木陰に荷物を下ろした。
「ふぅ……。重かった」
「お疲れ様、轟田。完璧な嫌われっぷりだったわよ」
アリスが呆れたように笑う。
轟田は樽を開け中身を確認した。
「干し肉に安ワインか。ま、当面の食いつなぎにはなるな」
「ねえ、轟田」
アリスがジト目で轟田を見た。
「あのホブゴブリンの死体。……あれ、魔石と角を抜き取ってなかったわよね?」
「あァ?面倒くさかったんだよ」
「嘘おっしゃい。ホブゴブリンの角は市場で高値で売れるわ。この干し肉の樽なんて十個は買えるくらいにね」
アリスは村の方角を振り返った。
村人たちは今頃死体の処理をしているだろう。
そして気づくはずだ。
厄介払いされた死体が実は奪われた食料以上の「財産」であることに。
「……アンタって、本当に損な性格してるわよね」
「勘違いすんな。俺は重い荷物を持ちたくなかっただけだ」
轟田はワインのコルクを歯で引き抜きラッパ飲みした。
渋い味が口に広がる。
「それに、これくらいでいいんだ。奴らが俺に『借り』を感じたままだと、俺が呪いで死ぬからな。『あいつは損得勘定で動くクズだ』と思われてるくらいが一番平和なんだよ」
轟田はニカっと笑った。
アリスはふぅとため息をつき、それから小さく呟いた。
「……バカ」
その言葉には今までで一番強い「呆れ」と隠しきれない「信頼」が混ざっていた。
「よし行くぞマネージャー。次の街でもっとデカい興行を探すぞ」
「はいはい。付き合ってあげるわよ、この筋肉ダルマ」
悪役レスラーとツンデレ騎士。
凸凹コンビの旅は、まだ始まったばかりだ。
(第5話へ続く)
ホブゴブリンの角を置いていく不器用なヒール。彼を応援(罵倒)してくださる方は、評価をお願いします!




