第34話:悪役(ヒール)だらけの狂宴
カジノ・タワー崩壊から一夜が明けた。
瓦礫と化した地下闘技場跡地には、朝からヒステリックな機械音が響き渡っていた。
キュイィィィィィィン!!!
ゴアァァァァァァッ!!!
「汚い汚い汚い!ここも!あそこも!塵一つ残さず滅却します!」
マリアが背中の翼(清掃兵装)をフル稼働させ、瓦礫の山を猛スピードで「分別」している。
燃えるゴミ(木材)は焼却。
燃えないゴミ(鉄骨)は圧縮。
そして有機物(敵の死体や生ゴミ)は、高濃度の聖水で消滅させる。
その手際は、職人芸を通り越して「災害」に近かった。
「……なぁ、アリス」
轟田は瓦礫の上に座り、ワイン(昨夜の残り)を飲みながら呟いた。
「あいつ、放っといて大丈夫か?街ごと更地にしそうな勢いだぞ」
「……止められるなら止めてみなさいよ。今のあの子、ランナーズハイに入ってるわ」
アリスが遠い目で答える。
彼女の手には、大量の胃薬が握られていた。
「おっさんおっさん!見てこれ!」
そこへ、ミミが金貨の詰まった袋を引きずって戻ってきた。
顔も服も煤だらけだが目は¥マークになっている。
「瓦礫の下から金庫見つけた!これだけあれば、タピオカ一生分飲めるし!」
「お、でかしたぞ泥棒猫!半分は俺様の『ショバ代』として徴収するがな」
「はぁ!?意味わかんないし!キモい!死ね!」
《侮蔑(守銭奴への嫌悪)を確認。……金運上昇(小)》
「……分析終了」
セレンが瓦礫の陰から現れ、分厚い手帳を閉じた。
「マリアの清掃兵装、およびミミの探索能力。……非常に合理的です。このメンバーなら、魔王城への侵入ルート確保も容易でしょう」
「おいおい天才サマ。俺様を『移動手段』の一部として計算してんじゃねぇよ」
「事実です。あなたの筋肉は、最高の『盾』ですから」
《侮蔑(道具扱い)を確認。……防御力上昇(中)》
「……はぁ」
アリスが深いため息をついた。
「泥棒に、マッドサイエンティストに、潔癖症の狂人……。まともなのが私とレオしかいないじゃない」
「俺を一緒にすんなよ」
レオが短剣の手入れをしながら口を挟む。
「俺はあくまで、こいつ(轟田)がくたばる瞬間を見届けるために居るだけだ。仲間じゃねぇよ。……まあ、介護くらいはしてやるけど」
《侮蔑(老人扱い)を確認。……敏捷性上昇(小)》
轟田はニカっと笑い、全員を見回した。
姫騎士、弟子、魔導師、盗賊、聖女。
職種も性格もバラバラ。
共通点はただ一つ――全員が轟田猛に対して「強烈な文句(感情)」を持っていることだ。
(……最高の環境じゃねぇか)
轟田は震えた。
ツンデレ、反抗期、論理的否定、生理的嫌悪、潔癖症。
四方八方から飛んでくる罵倒のシャワー。
これらが全て、轟田のステータスを底上げする「燃料」になる。
「カッカッカ!揃いも揃って口の悪ぃ連中だ!」
轟田は立ち上がり、両手を広げた。
「いいだろう!今日からテメェらは『チーム・サタン』だ!俺様という最強の悪役を輝かせるための、選りすぐりの脇役共だ!」
「「「「「お断りよ(だ・です・し・ます)!!!!!」」」」」
五人の声が見事にハモった。
拒絶の合唱。
その音圧だけで、轟田の筋肉がパンプアップする。
「そこの筋肉!邪魔です!どいてください!」
清掃を終えたマリアが、モップを構えて突っ込んできた。
「貴方の足元!汗と脂で床が汚染されています!今すぐ消毒させてください!」
「あァ?俺様の聖域を掃除しようなんて百年早ぇよ!」
轟田はマリアのモップを片手で受け止め、ニヤリと笑う。
「テメェは俺の『回復』担当だ。……俺が暴れて汚れたら、その都度ピカピカに磨き上げろ。それがテメェの新しい仕事だ」
「……ッ!」
マリアの顔が屈辱で歪む。
だがその瞳には奇妙な熱が宿っていた。
「……いいでしょう。受けて立ちます」
マリアは轟田の手を振り払い、不敵に微笑んだ。
「貴方がどれだけ汚そうと、私がその上から完璧に綺麗にして差し上げます。……どちらが先に根を上げるか、勝負ですね」
「望むところだ!」
バチバチと火花が散る。殺し合いではない。「汚す者」と「清める者」の、終わらない追いかけっこ(プロレス)の開幕だ。
◇
その夜。
轟田たちは、半壊したカジノホテルの最上階で、ささやかな宴を開いていた。
ミミが見つけた高級食材と酒。
マリアが完璧にテーブルセッティングをし、アリスが料理を切り分ける。
「乾杯だ、野郎共!」
轟田が樽ジョッキを掲げる。
「悪徳カジノと腐った教会。二つの巨悪を潰して、街は更地になっちまったが……ま、風通しは良くなっただろ!」
「街の人たちは大迷惑だけどね」
アリスが苦笑いする。
「でも……不思議と、みんな清々しい顔をしてたわ。お金も秩序もなくなったけど、『自由』にはなったみたい」
「秩序なら、私が明日から再構築します」
マリアが優雅に紅茶を啜る。
「この街の衛生管理は、今後すべて私が決めます。まずは『路上へのツバ吐き』を死刑にするところから……」
「重すぎるわよ!」
レオがツッコむ。
「てかおっさん、次はどうすんの?ここのボス倒したし、金もあるし、もうゴールでよくね?」
ミミが肉を頬張りながら聞く。
轟田はジョッキを置き、北の空――窓の外に広がる、漆黒の闇を指差した。
「バカ言え。……前座は終わりだ」
全員の視線が集まる。
轟田の表情から、酔いが消えていた。
「王都の竜。魔法都市の機神。そしてここのカジノと教会……。どれもデカい山だったが、所詮は『人間界』の話だ」
轟田は拳を握りしめる。
「この先に待ってるのは、本物の『地獄』だ。……魔王軍の本拠地。人類の敵の総本山だ」
空気の温度が下がる。
魔王。
それは、この世界における絶対的な「悪」の象徴。
あるいは――轟田にとっての「同業者」か。
「セレン。魔王ってのはどんな奴だ?」
轟田が問うと、セレンは端末を操作し、立体映像を投影した。
「……データ不足ですが、既存の文献によると『究極の理想主義者』とされています」
「理想主義者?」
「はい。争いを憎み、差別をなくし、全ての種族を統合しようとしている。……方法は不明ですが、彼に出会った者は皆、戦意を喪失し、恍惚とした表情で『彼こそが真の王だ』と口にするそうです」
「……洗脳か?」
アリスが眉をひそめる。
「いえ、洗脳のような強制力は確認されていません。ただ純粋に……『心酔』させられるようです」
セレンの言葉に、轟田は鼻を鳴らした。
「……ケッ。一番タチの悪ぃタイプだな」
轟田は直感した。
そいつは、かつての勇者アーク以上に厄介な「善意の怪物」だ。
暴力を振るわず、言葉とカリスマだけで世界を支配する、究極のベビーフェイス(善玉)。
「全人類を愛し、思考停止させる……か」
轟田はニヤリと笑った。
「気に入らねぇな。……人間ってのはな、悩んで、苦しんで、誰かを憎んで、それでも足掻くから面白ぇんだよ」
轟田は立ち上がり、マント(アリスから奪ったもの)を翻した。
「決まりだ。次の興行は魔王城!……その『完璧な平和』とやらを、俺様のプロレスで粉々にブチ壊しに行くぞ!」
「「「「「…………」」」」」
全員が沈黙する。
呆れているのではない。
その無謀すぎる宣言に、武者震いしているのだ。
「……仕方ないわね。最後まで付き合うわよ、このバカ」
アリスが剣を腰に差す。
「面白ぇ。世界のラスボス相手に、俺のスピードがどこまで通じるか試してやる」レオが不敵に笑う。
「データ収集の絶好の機会です」セレンが眼鏡を光らせる。
「ウチも行くー!魔王城のお宝、根こそぎ頂くし!」
ミミが立ち上がる。
「……魔王城は不衛生そうですからね。私が徹底的に除菌して差し上げます」
マリアが殺意(掃除用具)を構える。
轟田は満足げに頷いた。
「よし!出発は明日だ!それまで飲め!食え!……テメェらの命、俺様が預かってやる!」
「預けないわよ!」
「自分の命は自分で守るし!」
「勝手に仕切るな!」
罵声が飛び交う宴。
だがその騒がしさは、かつての孤独な旅とは違う「熱」を帯びていた。
最強の悪役と、彼を支える(罵倒する)最凶の仲間たち。
欲望と信仰が渦巻く街を更地にし、チーム・サタンは魔王城へ向けて進軍を開始した。
これにて、第4章「カジノ&教会編」――閉幕。世界の命運を賭けた最終決戦のゴングまで、あとわずか。
(第4章完)(第5章へ続く)
第4章完結。
全員集合!
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