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異世界極悪レスラー〜感謝されると即死するので、全力でヒール(悪役)を演じてたら世界最強の魔王としてバズっていた件〜  作者: 早野 茂
【第4章】黄金都市のデスマッチ〜カジノ王と潔癖聖女の終焉〜

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第31話:「消毒」開始。 聖女の皮を被った「清掃員」

カジノ・タワー崩壊から数時間後。

地下空間『グランド・コロシアム』は、奇妙な熱気に包まれていた。

「うおおおお!金だ!金券が降ってきたぞ!」

「魔王万歳!サタン・ゴウダ万歳!」

「酒を持ってこい!今夜は朝まで宴だ!」

暴動はいつしか祝祭へと変わっていた。

カジノ王ガラスの失脚により管理システムが崩壊。

金庫からはタワー崩壊の衝撃で金貨が溢れ出し抑圧されていた客や従業員たちがここぞとばかりに解放感を爆発させているのだ。

「……おぇっぷ」

轟田は瓦礫の上に腰を下ろし青ざめた顔で口元を押さえていた。

酒の飲み過ぎではない。

空間に充満する「称賛」の空気に当てられているのだ。

「英雄様ー!こっち向いてー!」

「一生ついていきますアニキ!」

さっきまで「殺せ」と叫んでいた連中が今はキラキラした目で轟田を崇めている。

大衆の掌返し(ターン)など日常茶飯事だが今の轟田にとってこの純粋な好意は猛毒だ。

《会場規模の感謝・称賛を確認。……HP減少中》

「……クソが。胸焼けがしやがる」

轟田は近くにあった高級ワインをラッパ飲みして無理やり吐き気を抑え込んだ。

このままでは戦闘ダメージではなく「人気」で殺される。

「おいおっさん!見てよこれ!」

ミミが目を輝かせて駆け寄ってきた。

その手には山のような宝石とガラスの金庫からくすねた金塊が握られている。

「ドサクサに紛れて回収してきた!これで当分遊んで暮らせるし!ウチら勝ち組じゃん!」

「……泥棒猫が。テメェ、借金が消えただけじゃ飽き足らねぇのか」

「当たり前っしょ!慰謝料よ慰謝料!」

ミミはケラケラと笑う。

轟田はふぅ、と息を吐き、天井――地上への出口に向けた視線を鋭くした。

「……そろそろ来る頃だ。この甘ったるい空気をブチ壊す『お邪魔虫』がな」

この都市ベガス・マギアは、二つの権力が均衡を保っている。

地下の欲望を支配するカジノ。

そして地上の秩序を支配する教会だ。

あれだけの騒ぎを起こして向こうが黙っているはずがない。

「予感的中ですね」

セレンが眼鏡の位置を直し天井を指差した。

カァァァァァァァッ……!

突如地下空間全体が白一色に染まった。

照明ではない。

天井の岩盤を透過して降り注ぐ高密度の「浄化魔法」の光だ。

「な、なんだ!?」

「目が、目がぁぁぁっ!」

宴を楽しんでいた人々が悲鳴を上げる。

光を浴びた魔物や悪人(カルマ値の高い者)たちが肌を焼かれてのたうち回る。

「……チッ。相変わらず趣味の悪ぃ演出だ」

轟田は顔をしかめたがその表情は先程より幾分マシになっていた。

称賛の空気が霧散しヒリヒリするような「敵意」が満ちてきたからだ。

ヒュン、ヒュン、ヒュン……。

光の中から白い影が次々と降下してきた。

純白の全身鎧を纏った騎士たち。

背中には機械仕掛けの翼。

手には魔導ライフル。

『聖教会・異端審問部隊』だ。

鎮静化サイレンス。……これより、この区画を『浄化』します」

無機質な号令と共に白騎士たちが動き出した。

暴れる者は警棒で殴打し逃げる者はライフルで撃ち抜く。

鮮やかな制圧劇。

カジノの警備員たちが子供に見えるほどの洗練された暴力だ。

「うわ、マジかよ……教会サツが来やがった!」

ミミが青ざめて轟田の背中に隠れる。

その制圧部隊の中心に一人の少女が舞い降りた。

純白のシスター服。

腰まで届く金色の髪。

慈愛に満ちたブルーの瞳。

手には聖書ではなく巨大なモップ(・・・・・)のような形状の杖を持っている。

「……あらあら。まあまあ」

少女――マリアは、瓦礫と汚物にまみれたアリーナを見渡し、困ったように頬に手を当てた。

「なんて汚いのでしょう。……ゴミと、欲望と、汚れた魂の掃き溜めですね。臭くて鼻が曲がりそうです」

鈴を転がすような美しい声。

だがその言葉選びには、隠しきれない棘があった。

「あ、あの……聖女様!助けてください!怪我が……」

逃げ遅れた男がすがるようにマリアの足元に這い寄った。

マリアはニッコリと微笑み男の頭に手をかざした。

「可哀想に。……痛いですね?苦しいですね?」

ポゥ……。

温かな光が男を包み傷が瞬く間に癒えていく。

男の表情が安らぎに変わる。

「あぁ、ありがとうございます……!」

「いいえ。神の愛は平等ですから」

マリアは男の手を取り優しく立たせた。

――そして。

男が感謝して去ろうとした瞬間、マリアは懐から除菌スプレーを取り出し男に触れた自分の手を親の敵のように消毒し始めた。

「(……死ねよゴミ虫。私の手に脂がついたでしょうが。汚らわしい)」

小さな、しかし明確な「本音」が轟田の耳に届いた。

見ればマリアの笑顔は完璧なままだがその目は笑っていない。

むしろ目の前の人間を「生ゴミ」として認識している目だ。

「……ほう」

轟田の口元が緩んだ。

アークのような天然の善人でもマリエルのようなヒステリックな正義でもない。

こいつは――「同類」だ。

「……そこな、筋肉の塊さん?」

マリアがくるりと振り返り轟田を見上げた。

ニコリ。

完璧な営業スマイル。

「貴方ですね?この不衛生な空間をさらに暴力で散らかした元凶は」

「あァ?俺様は『模様替え』をしただけだぜ」

「減らず口を。……貴方のせいで私の『清掃業務』が増えました。どう責任を取ってくださるのですか?」

マリアはモップ型の杖を構え先端を轟田に向けた。

「神に代わって提案します。……その汚い肉体を消毒液に漬け込んで、一生教会の便所掃除をするというのはどうでしょう?貴方のような薄汚い方にはお似合いの職場ポジションですよ?」

慇懃無礼。

言葉は丁寧だが内容はただの罵倒だ。

《侮蔑(潔癖症による拒絶)を確認。……HP急速回復、防御力上昇(中)》

「……ふぅ。生き返ったぜ」

轟田は首を鳴らし清々しい顔で息を吐いた。

英雄扱いされていた時の胸のつかえがこの女の毒舌のおかげで綺麗さっぱり消え去った。

「カッカッカ!便所掃除か、悪くねぇ!」

轟田は一歩踏み出した。

「だが断る。俺様は『汚す』のが仕事でな。……テメェみたいな綺麗好きな女を見ると泥団子をぶつけたくてウズウズするんだよ」

「……チッ」

一瞬。

マリアの顔から笑顔が消え舌打ちが聞こえた気がした。

「そうですか。残念です。……では、強力洗剤(物理)でシミ抜きするしかありませんね」

マリアが指をパチンと鳴らす。

周囲の白騎士たちが一斉に銃口を轟田に向けた。

「総員、清掃開始クリーニング。……この産業廃棄物を、分子レベルまで分解しなさい」

「上等だ!掃除できるモンならやってみろ!」

轟田は拳を握りしめた。

カジノを潰した直後、休む間もなく始まる第2ラウンド。

今度の相手は「清掃員(聖女)」。

聖と俗、綺麗と汚い。

相反する二つの価値観が、カジノの廃墟で激突しようとしていた。

「おいピンク(ミミ)!アリスたちを呼んでこい!……また騒がしくなるぜ!」


(第32話へ続く)

潔癖聖女マリア。

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