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異世界極悪レスラー〜感謝されると即死するので、全力でヒール(悪役)を演じてたら世界最強の魔王としてバズっていた件〜  作者: 早野 茂
【第4章】黄金都市のデスマッチ〜カジノ王と潔癖聖女の終焉〜

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第26話:金と欲とギャルとプロレス

マモンたちを星の彼方へ吹き飛ばした後。

轟田一座は散乱した金貨や契約書には目もくれず再び荒野を歩き出していた。

「……はぁ」

レオがこの世の終わりのようなため息をついた。

これで百回目だ。

「一億だよ……。金貨一億枚……」

「しつこいぞ小僧。男が一度捨てたもんに未練タラタラしてんじゃねぇ」

「捨てた!?アンタが勝手に吹き飛ばしたんだろ!あのお金があれば、セレンの最新の研究機材も買えたし、俺たちの逃亡資金だって一生分あったのに!」

レオが涙目で抗議する。

アリスも「うっ……」と胸を押さえ、遠い目をした。

元騎士団長としてのプライドはあるが、今の彼女は「無職の指名手配犯」だ。

老後の不安は切実である。

「いいか、よく聞け」

轟田は立ち止まりレオの肩に手を置いた。

「あの金は『手切れ金』だ。受け取っちまったら、俺様が『金を払えば大人しく帰る奴』になっちまう。

……ヒールのプライドはな、金じゃ買えねぇんだよ」

「……だからって路銀ゼロは非効率すぎるだろ」

「カッカッカ!心配すんな。次の街で稼げばいいだけの話だ」

轟田はニカっと笑い前方を指差した。

地平線の彼方。

夕闇が迫る荒野の中にそこだけ異常な光を放つ場所があった。

七色のネオン。

空を焦がすほどの照明マジック・ライト

そして風に乗って聞こえてくる、喧騒と音楽。

「……なんだ、ありゃ」

「……観測結果。魔力消費量が異常です。王都の三倍以上のエネルギーが、あの狭い区画に集中しています」

セレンが数値を読み上げる。

アリスが眉をひそめた。

「あそこは……中立都市『ベガス・マギア』。大陸中の富と欲望が集まる、カジノと闘技場の街よ」

境界荒野のど真ん中に咲いた巨大な徒花。

そこは轟田猛にとって最高の「次のリング」になる予感がした。



都市のゲートをくぐると、そこは別世界だった。

金、金、金。

通りを歩くのは、着飾った大富豪、一攫千金を夢見る冒険者、そしてそれらを狙う怪しげな売人たち。

建物の壁面には巨大な魔法スクリーンが浮かび、カジノの宣伝や、闘技場のオッズが映し出されている。

「すっげー……。街全体がゲーム盤みたいだ」

「興味深い社会構造です。生産性が皆無で富の再分配のみで成立している」

レオとセレンがキョロキョロする中、轟田は鼻を鳴らした。

「……臭ぇな」

「え?轟田、お風呂入ってないから?」

「違ぇよアリス。……『金』の臭いだ」

轟田は不快そうに顔をしかめた。

この街の空気は熱気はあるが「濁って」いる。

人々が興奮しているのは目の前のドラマや闘いではない。

その裏にある「見返り(配当)」だ。

「ここには俺の求める『熱狂』はねぇかもな。

……あるのは『射幸心』だけだ」

「はいはい、哲学はいいから。まずは宿代を稼がないと野宿よ」

アリスが現実的な問題を突きつける。

轟田は「チッ」と舌打ちしポケットを探った。

空っぽだ。

マモンの金貨を拾わなかったツケがここに来て回ってきた。

「……オイ、そこのおっさん」

その時。

路地裏から軽い声がかかった。

「へぇ……。デカい図体してんじゃん。強そう~」

現れたのは一人の少女だった。

派手なピンク色の髪をツインテールにし露出度の高いダンサー風の衣装。

猫のような耳と尻尾が生えている。

獣人ビーストだ。

爪には派手なネイル首にはジャラジャラとした安っぽいアクセサリー。

いわゆる「ギャル」である。

「あァ?誰だテメェ」

「ウチ?ウチはミミ。この街でイチ押しのコーディネーターだし?」

ミミと名乗った少女はガムを噛みながら轟田を値踏みするように見上げた。

「おっさん、金なさそーな顔してるね。……どう?ウチが『稼げるヤマ』紹介してあげよっか?」

「稼げるヤマだと?」

「そ。地下闘技場アンダーグラウンド。……その筋肉があれば、イイ線いけると思うんだよねー」

ミミは轟田の腕に触れようとして――ピタリと止まった。

そして、あからさまに顔をしかめ鼻をつまんだ。

「うわっ、くっさ!」

「……あ?」

「汗と埃の臭いがヤバいんだけど!マジ無理!生理的に受け付けない臭いなんですけどー!」

ミミは手をパタパタと振って露骨に距離を取った。

「近寄んないでくれる?ウチ、おっさんの加齢臭とかマジで吐き気するタイプだから」

《侮蔑(生理的嫌悪感)を確認。……耐久値上昇(中)》

轟田の眉がピクリと動く。

今までの敵は「恐怖」や「殺意」、あるいは「論理的否定」だった。

だがこの小娘の感情は違う。

ただ純粋な、本能レベルの「拒絶」。

「キモい」「臭い」「無理」。

(……ほう。これまた新鮮な毒だ)

轟田はニヤリと笑った。

男としてなら傷つく場面だがヒールとしてなら「嫌われる」のは御馳走だ。

特にこの手の「若者からの無根拠な拒絶」は悪役としての哀愁シブさを引き立てる。

「カッカッカ!悪ぃな嬢ちゃん。これが大人のフェロモンってやつだ」

「ハァ?キモ。マジでキモい。勘違い乙」

ミミは冷たい目で言い放った。

「ま、臭いのは我慢してやるよ。おっさんが稼げばウチにも紹介料マージンが入るしね」

「……なるほど。テメェも金か」

「当たり前っしょ。金がなきゃコスメも買えないし、タピオカも飲めないし。この街じゃ息するだけで金がかかんの」

ミミはケラケラと笑うがその瞳の奥は笑っていなかった。

一瞬だけ見えた焦燥感。

そして首元に見え隠れする「黒いチョーカー」。

ただのアクセサリーではない。

微かな魔力を帯びている。

「……奴隷の首輪か?」

アリスが小声で呟く。

轟田はそれに気づかないフリをして、ミミに頷いた。

「いいだろう。案内しな。……その『地下闘技場』とやらで、一発デカい花火を打ち上げてやる」

「りょ!話早くて助かるわー。……あ、移動中は半径2メートル以内に入らないでね。臭いから」

「へいへい。注文の多いマネージャーだぜ」

轟田たちはミミの案内で、都市の地下へと続く薄暗い階段を降りていった。



地下闘技場。

そこは地上のカジノ以上に熱気と欲望が渦巻く場所だった。

鉄格子で囲まれたリング。

その周囲を酒とタバコの煙にまみれた観客たちが埋め尽くしている。

「殺せー!」

「右腕を折れ!」

「俺の金がかかってんだぞ!!」

飛んでいるのは声援ではない。

自分の賭け金を守るための、悲痛な叫びだ。

「……空気が悪いわね」

アリスが顔をしかめる。

リング上では大男が対戦相手の喉元に噛みつき鮮血が飛び散っていた。

観客が湧く。

だが轟田の目は冷めていた。

「三流だ」

轟田は吐き捨てるように言った。

「技術もねぇ、受け身も取れねぇ。ただ痛めつけてるだけだ。……あんなのはプロレス(ショー)じゃねぇ。ただの『処刑』だ」

「いーのいーの。客は『血』と『悲鳴』が見たいだけなんだから」

ミミが退屈そうに爪をいじりながら言う。

「ここじゃ強さが全て。勝てば大金、負ければゴミ。……シンプルでしょ?」

「……つまんねぇ街だ」

轟田はボキボキと指を鳴らした。

「おい、ギャル。次の試合、俺様をねじ込め」

「え、もう行くの?心の準備とか……」

「必要ねぇ。俺様がこのシケたリングに、『本物のエンターテインメント』を教えてやる」

轟田はマント(というかアリスに借りた布)を脱ぎ捨て、黒パンツ一丁の姿になった。

その背中に、無数の傷跡と、歴戦の筋肉が浮かび上がる。

「うわ、露出狂じゃん……マジ無理……」

ミミが本気で引いている。

《侮蔑(ドン引き)を確認。ステータス上昇(小)》

「行ってくるぜ。……テメェら、俺に全財産ゼロ賭けとけよ!」

轟田猛、カジノ都市・地下闘技場に乱入デビュー

金もルールも関係ない。

ここにあるのは、欲望という名の観客と、それを粉砕する一人のヒールだけだ。


(第27話へ続く)

ギャル獣人ミミ。

「キモい」は褒め言葉!

皆様の「キモい(最高)」を星に込めてください!

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