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異世界極悪レスラー〜感謝されると即死するので、全力でヒール(悪役)を演じてたら世界最強の魔王としてバズっていた件〜  作者: 早野 茂
【第4章】黄金都市のデスマッチ〜カジノ王と潔癖聖女の終焉〜

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第24話:地獄からのヘッドハンティング

聖教国を追放され轟田一座は北へ向かっていた。

目指すは人類の支配領域と、魔族の支配領域を隔てる「境界荒野ノーマンズ・ランド」。


「……殺風景な場所だな」


馬車に揺られながら轟田は赤茶けた荒野を見渡した。

草木一本生えていない。

あるのは岩と砂、そして乾いた風だけだ。

だが轟田の表情は晴れやかだった。


「だがあの聖都の『砂糖菓子』みてぇな空気に比べりゃ、よっぽどマシだ。深呼吸しても胸焼けしねぇ」


「そりゃあね。ここは法も宗教も届かない無法地帯よ」


アリスが地図を広げながら答える。

彼女の表情も騎士団長時代よりどこか吹っ切れたように見える。


「この先は魔王軍の前線基地があるわ。……いよいよ、人類の敵の本丸ね」


「分析結果。この地域の魔素濃度は通常の五倍。モンスターの出現率は聖教国の十倍です」


セレンが淡々と補足しレオが「げっ」と顔をしかめる。


「効率わりーなぁ。そんな危険地帯にわざわざ行く意味ある?俺たち、もう十分稼いだし、南の島でバカンスでも……」


「バカ言え。俺様は『魔王』だぞ?」


轟田はニカっと笑い自分の胸を親指で指した。


「本物の魔王に挨拶しねぇでどうする。……どっちが『本物』か、リングの上で白黒つけなきゃなんねぇだろ?」


「はいはい。プロレス脳はお元気そうで何より」


レオが呆れて肩をすくめる。

そんな軽口を叩き合っていたその時だった。


ズズズズズ……ッ。


地響きと共に前方の砂煙が割れた。

現れたのはモンスターの群れ――ではない。

漆黒の塗装が施された巨大な「黒塗りの馬車」だった。

牽引するのは炎を纏った四頭の夢魔ナイトメア

御者台には骸骨の兵士が直立不動で座っている。


「……なんだありゃ。霊柩車か?」


轟田が眉をひそめる。馬車は轟田たちの前で静かに停止した。


ガチャリ。


重厚な扉が開き中から一人の男が降りてきた。


紫色の肌。

羊のようにねじれた二本の角。

背中にはコウモリのような翼。

明らかに「魔族」だ。

だがその服装は――仕立ての良い「スーツ」だった。

鼻には銀縁眼鏡。

手には革張りのバインダー。

どう見ても戦闘員ではなく「ビジネスマン」の風体だ。


「お初にお目にかかります」


男は慇懃無礼に一礼した。

その動作は洗練されており殺気は皆無。


「私は魔王軍・第三軍団長兼、対外広報戦略局長を務めております、マモンと申します」


「……あァ?広報戦略だァ?」


轟田が怪訝な顔をする。

魔王軍の幹部といえば筋肉ムキムキの武闘派か、邪悪な魔法使いと相場が決まっている。

こんな中間管理職みたいなのが幹部だと?


「単刀直入に申し上げましょう」


マモンは眼鏡の位置を直しバインダーから一枚の羊皮紙を取り出した。

そこには轟田の似顔絵(手配書)と何やら細かい数字が羅列されている。


「轟田猛様。……貴方を、我が魔王軍にスカウトしに参りました」


「は?」


アリスたちがポカンとする中マモンは流暢に続けた。


「先日の聖都でのパフォーマンス、拝見いたしました。……素晴らしい。実に素晴らしい『数字』です」


「数字?」


「ええ。貴方が大聖堂を破壊した瞬間の『感情エネルギー総量』。そして、そのニュースが世界中に拡散された際の『注目度インプレッション』……。どれをとっても、近年の魔王軍幹部を遥かに上回る数値を叩き出しています」


マモンはうっとりと羊皮紙を眺めた。


「勇者アークの人気に陰りが見え始めた昨今、我々魔王軍としても、新たな『スター』を求めておりましてね。……貴方なら、次期魔王候補……いえ、『魔王軍のトップ・ヒール』として即戦力になれる」


マモンは轟田に契約書を差し出した。


「どうでしょう?契約金は金貨一億枚。年俸制で、福利厚生も完備。人間界の征服後は、お好きな領土を差し上げます。……悪い話ではないはずですが?」


沈黙。

レオが「い、一億!?」と目を丸くし、セレンが「破格の条件ですね」と冷静に評価する。

だが轟田の表情は冷めていた。


「……おい、角メガネ」


轟田は馬車から降りマモンの前に立った。


「テメェ、俺の何を見てやがった?」


「はい?ですから、貴方の発する圧倒的な『集客力』と『話題性』を……」


「数字の話をしてんじゃねぇよ」


轟田が契約書をひったくり目の前でビリビリに破り捨てた。


「なッ……!?」


マモンが初めて表情を崩す。


「テメェは俺の『暴れ』をただの数字としてしか見てねぇ。……気に食わねぇな」


轟田は破り捨てた紙片をマモンの顔に投げつけた。


「俺はプロレスラーだ。客を沸かせるのは好きだが、テメェみたいなシケた管理職に『商品』扱いされるのは御免なんだよ!」


《侮蔑(拝金主義への嫌悪)を確認。筋力上昇(小)》


「……残念です」


マモンはため息をつき眼鏡を拭いた。

その瞳から「ビジネスライク」な光が消え冷徹な「査定」の光が宿る。


「交渉決裂ですね。……ですが、我々としても『優秀な商材』を他社(人間側)に渡すわけにはいきません」


パチン。

マモンが指を鳴らすと黒塗りの馬車から無数の「影」が溢れ出した。

武装した黒服の魔族たち。

手には魔導銃やスタンロッドを持っている。


「力ずくでも入社(拉致)していただくことになります。……多少の傷は、再生魔法(経費)で直せますから」


「カッカッカ!最初からそう来いよ!」


轟田はボキボキと拳を鳴らした。


「ブラック企業への体験入社か?上等だ!俺様が『労働組合ユニオン』の恐ろしさを叩き込んでやるぜ!」


荒野の真ん中でプロレスラーvs魔王軍(人事部)の抗争が勃発する。

金も、地位も、契約も関係ない。

轟田猛は誰にも縛られない。


(第25話へ続く)

ブラック企業・魔王軍。

不当なスカウトを蹴った轟田へ、賛辞のブーイング(評価)を!

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