第21話:聖女の仮面、悪魔の鉄槌
「死ねェッ!!薄汚い冒涜者ァッ!!」
聖女マリエルが杖を振り下ろした。
先端の宝石から極大の閃光が迸る。
神聖魔法『聖なる裁き(ジャッジメント)』。
アンデッドなら消滅し罪人なら魂を焼かれる高位魔法だ。
カッッッッ!!!
大聖堂が白一色に染まる。
直撃。
普通なら蒸発している。
――だが。
「……眩しいんだよ、クソアマ」
光が晴れた後、そこには煤一つついていない轟田が立っていた。
彼は退屈そうに耳をほじりフゥーッと息を吹きかけた。
「な、ん……!?」
マリエルが目を見開く。
「なぜ……!神の裁きが通じないのですか!?」
「当たり前だろ。テメェの魔法には『私怨』がたっぷり籠もってんだよ」
轟田はニヤリと笑った。
《敵対感情(聖女の殺意)を確認。聖属性耐性(特大)を付与》
本来、聖魔法は轟田の天敵だ。
だが今のマリエルにあるのは「正義」ではない。
「好きな男を侮辱された私怨」と「神聖な場所を汚された怒り」だ。
そのドス黒い感情が混じった時点でそれは轟田にとって「極上のバフ」となる。
「神様も見てるぜ?『お前、顔が般若になってんぞ』ってなァ!」
「だ、黙りなさいッ!!」
マリエルが絶叫する。
彼女の清廉な仮面が剥がれ落ちていく。
「貴様のようなゴミは、存在自体が間違いなのです!アーク様に唾を吐いた罪!女神像を傷つけた罪!死んで償え!死ね!死ねぇッ!!」
ドシュッ!ドシュッ!マリエルが狂ったように魔法を連射する。
光の矢が雨のように降り注ぐが轟田はそれを胸板で弾き手で払い落とす。
「カッカッカ!いいぞ!もっと喚け!その金切り声が俺様への応援歌だ!」
轟田のHPバーが減るどころか回復限界を突破し始める。
信者たちもあまりの光景にどよめき始めた。
「あ、あれがマリエル様……?」
「なんて恐ろしい形相だ……」
「まるで悪鬼のようだ……」
聖女への畏怖。
そして轟田への恐怖。
大聖堂の空気が完全に「混沌」へと変わる。
「やめるんだ、二人とも!!」
その時勇者アークが割って入った。
彼は悲痛な面持ちで轟田とマリエルの間に立ちはだかった。
「マリエル、落ち着いてくれ!彼は混乱しているだけなんだ!殺すなんて言ってはいけない!」
「アーク様!どいてください!こいつは悪魔です!」
「違う!彼は被害者だ!」
アークは轟田の方を向き、またしても潤んだ瞳で訴えてきた。
「君もだ!もういい!もう十分だ!君がどれだけ世界を憎んでいても、こんな破壊活動で心は満たされないはずだ!」
《聖なる説教を確認。精神ダメージ発生》
「ぐッ……!」
轟田が顔をしかめる。
やっぱりコイツが一番厄介だ。
この期に及んでまだ俺を「更生可能な被害者」だと思ってやがる。
「うるせぇ!引っ込んでろ偽善者!」
轟田はアークの顔面にドロップキックを放った。
ドガッ!!
アークが吹き飛ぶ。
だが勇者は空中で華麗に回転し、無傷で着地した。
強い。無駄に強い。
「君が落ち着くまで、僕が相手になる!」
アークが聖剣に手をかける。
マズい。
勇者が本気になれば物理的に負ける可能性がある。
轟田は瞬時にターゲットを切り替えた。
(まずはエネルギー源(聖女)を確保する!)
「オラァッ!」
轟田はアークを無視しマリエルへ突進した。
マリエルが反応するより早くその細い首を鷲掴みにする。
「きゃあっ!?」
「マリエル!」
轟田はマリエルを盾にするように持ち上げた。
「動くな勇者!この女の首がへし折れてもいいのか!?」
卑劣な人質作戦。
信者から「卑怯者!」「最低だ!」という罵声が飛ぶ。
《卑劣行為を確認。防御力上昇(大)》
最高だ。
「は、放しなさい!この野蛮人!不潔!獣臭い!」
マリエルが轟田の腕の中で暴れる。
轟田はニヤリと笑い、彼女の耳元で囁いた。
「おい聖女サマ。テメェ、普段から猫被ってんだろ?」
「……は?」
「本当はアークの隣でニコニコしてるのが苦痛なんじゃねぇか?『清廉潔白』なんて窮屈なドレス、脱ぎ捨てたくてたまらねぇんだろ?」
「な、何を……」
図星だったのかマリエルの動きが一瞬止まる。
轟田は続ける。
「俺には分かるぜ。テメェの魔法には『破壊衝動』が混じってた。……テメェもこっち側の素質があるぜ?」
「ふ、ふざけるなッ!!私は聖女よ!選ばれた存在なのよ!」
マリエルが激昂し至近距離で魔法を放とうとする。
だが轟田の方が速い。
「説教は終わりだ。……洗礼の時間だぜ!」
轟田はマリエルの体を空中に放り投げた。
そして落下してくる彼女の顔面を、巨大な掌でキャッチする。
「ア、アークさ……!」
「神に祈れ!アイアン・クロー・スラムッ!!!!」
轟田はマリエルの顔面を掴んだまま、勢いよく祭壇へと叩きつけた。
ズドォォォォォンッ!!!
祭壇が砕け散る。
土煙が舞い瓦礫の中にマリエルが沈む。
ピクリとも動かない。
聖女の完全なる敗北(KO)。
「マリエルーーーッ!!」
アークの絶叫が響く。
大聖堂は静まり返り、そして次の瞬間爆発的なパニックに包まれた。
「せ、聖女様が殺された!?」
「悪魔だ!本物の悪魔だ!」
「逃げろ!殺されるぞ!」
数千の信者が我先にと出口へ殺到する。
祈りの場は一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。
その中心で。
轟田は瓦礫の上に立ち両手を広げてその「恐怖」と「憎悪」を全身で浴びていた。
「カッカッカ!見ろ!これがテメェらの信仰の脆さだ!」
HP全快。ステータス絶好調。
轟田は青ざめるアークを見下ろし凶悪に告げた。
「どうだ勇者。これが俺の本性だ。……さあ、まだ俺を『可哀想な被害者』だと言えるか?怒れよ。憎めよ。俺を殺したいと叫べよ!」
アークは倒れたマリエルを抱き起しそしてゆっくりと轟田の方を向いた。
その瞳から光が消えていた。
初めて見る勇者の「虚無」の表情。
「……轟田、君は」
アークが聖剣を抜く。
チャキッ、と冷たい音が響いた。
「君は、越えてはいけない一線を越えた」
《敵対感情(正義の鉄槌)を確認。……警告:エネルギー量が測定不能》
空気が変わった。
善意でも悪意でもない。
純粋な「排除の意志」。
世界そのものが轟田を拒絶するかのような圧倒的なプレッシャー。
(……へっ。やっと本気になりやがったか)
轟田は冷や汗を流しながらも口角を吊り上げた。
これだ。
これを待っていた。
甘ったるい善意じゃない。
ヒリヒリするような殺し合い(デスマッチ)。
「いいぜ、アーク・ライトニング。……第2ラウンドだ!」
(第22話へ続く)
聖女の仮面剥がし。
ざまぁ展開を加速させるため、皆様の【☆☆☆☆☆】で煽りを入れてください!




