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異世界極悪レスラー〜感謝されると即死するので、全力でヒール(悪役)を演じてたら世界最強の魔王としてバズっていた件〜  作者: 早野 茂
【第3章】聖女と勇者と極悪レスラー〜綺麗事を踏みにじる鉄槌〜

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第19話:ポジティブ・モンスターの襲来

「……ハァ、ハァ……。死ぬかと思った……」

聖都の路地裏にある薄暗い安宿。

轟田はベッドに倒れ込み荒い息を吐いていた。

「大丈夫ですか、轟田」

セレンが脈を測りながら冷静に診断を下す。

「心拍数低下。自律神経に乱れあり。……あの勇者と接触したのはわずか数分でしたが、致死量の『善意』を浴びましたね。後遺症が残らなかったのが奇跡です」

「あの野郎……。笑顔一つで人を殺しかけるとは、とんだ化け物だぜ」

轟田は天井を睨みつけた。

ドラゴンのブレスも機神のレーザーも耐えたこの肉体が、勇者の「親切」には勝てない。

相性が悪すぎる。

この国に長居すれば俺の命が持たない。

「さっさと用事を済ませてずらかるぞ。……アリス、次の興行の予定は?」

「それが……」

アリスが困り顔で窓の外を見た。

「さっきの騒動で貴方はすっかり『勇者様のパレードを台無しにした無礼者』として有名人よ。……まあ、おかげで街中から嫌われて、HPは回復してるみたいだけど」

「ケッ。悪名は無税の資産カネだ。いいことじゃねぇか」

轟田が強がったその時だった。

コンコン。

部屋のドアがノックされた。

「……あ?」

全員が緊張する。

衛兵か?それとも聖教会の異端審問官か?

レオが短剣を抜き音もなくドアに近づく。

「……誰だ?」

「あ、よかった。ここにいたんだね!」

ドア越しに聞こえてきたのは――聞くだけで耳が溶けそうなほど爽やかな、あの「イケメンボイス」だった。

「げっ……!」

「嘘でしょ!?」

轟田とアリスが絶句する。

アがガチャリと開き(鍵はかかっていたはずだが、勇者の強運か何かで開いたらしい)、そこには満面の笑みを浮かべた勇者アークが立っていた。

手には「お見舞い」と書かれたフルーツバスケットを持っている。

「やあ、こんにちは!さっきは挨拶もそこそこに別れてしまったから、気になって探しに来たんだ」

キラキラキラ……。

背景に花が咲く幻覚が見える。

部屋の空気が一瞬で「浄化」され轟田のHPバーが音を立てて削れ始めた。

「ぐ、おぉ……ッ!?」

「轟田!?」

轟田が胸を押さえて苦悶する。

アークが慌てて駆け寄ろうとする。

「大丈夫かい!?やっぱり顔色が悪いよ。すぐに教会へ……」

「来るなッ!!」

轟田は這うように後退し壁に張り付いた。

冷や汗が止まらない。

こいつなんで俺の居場所が分かった?

なんで俺に構う?

俺はさっき、お前を罵倒して馬を叩いてパレードをぶち壊した悪党だぞ?

「テメェ……!何の用だ!俺はテメェに喧嘩を売ったんだぞ!報復に来たならさっさと剣を抜きやがれ!」

轟田が威嚇する。

だがアークはキョトンとした顔をしてそれから優しく微笑んだ。

「報復?まさか。君がそんな悪い人じゃないことは、僕には分かっているよ」

「……は?」

「だって君、あの時馬を叩く手加減をしていただろう?馬は驚いただけだった。本当に悪意があるなら、君ほどの腕力なら馬を殺していたはずだ」

アークは真っ直ぐな瞳で轟田を見つめた。

その瞳には、一点の疑いもない。

「君は、本当は優しい人なんだね。……きっと、素直になれない事情があるんだろう?不器用なだけなんだ」

超解釈ポジティブ・シンキングを確認。善意の貫通ダメージ》

「が、はッ……!」

轟田が吐血した。

逃げ場がない。

俺の悪意が、罵倒が、ヒールムーブが、こいつの脳内フィルターを通ると全て「不器用な優しさ」に変換されてしまう。

話が通じない。

セレンとは違うベクトルでこいつもまた「対話不能な怪物」だ。

「いい加減になさい、アーク様!」

その時アークの後ろから鋭い声が飛んだ。

パレードの時にもいた、純白のドレスの聖女だ。

彼女は部屋に入ってくるなり汚いものを見るような目で轟田を睨みつけた。

「こんな無礼な男に、なぜそこまで情けをかけるのですか!アーク様のお優しさには呆れます!」

聖女――マリエルは腰に手を当てて轟田を指差した。

「おい、そこの筋肉!アーク様が許しても、私は許しませんよ!パレードを台無しにした罪、万死に値します!この薄汚いドブネズミが!」

《敵対感情(激怒・潔癖)を確認。HP急速回復……》

「……はぁーッ」

轟田は大きく息を吸い込んだ。

生き返った。

この聖女の棘のある言葉、軽蔑の視線。

これが今の轟田には酸素よりもありがたい。

(……そうか。分かったぞ)

轟田は直感した。この空間で生き残る方法はただ一つ。

アークの「善意」を中和するために、この聖女の「悪意ヘイト」を利用するしかない。

「カッカッカ!いい声で鳴くじゃねぇか、アマ公」

轟田はわざとらしく鼻をほじりその指をマリエルに向けた。

「勇者の金魚のフンが、偉そうな口利いてんじゃねぇぞ。テメェみたいなヒステリー女は、男にモテねぇだろ?」

「なッ……!?ぶ、無礼な!」

マリエルの顔が真っ赤になる。

彼女の殺気が膨れ上がる。

轟田のHPバーが回復していく。

よし、これなら耐えられる。

「マリエル、やめるんだ」

しかしアークが悲しげにマリエルを止めた。

「彼を責めないであげてくれ。……彼はきっと、過去に聖職者から酷い扱いを受けたんだ。だから、君のような聖女を見ると、トラウマが刺激されて攻撃的になってしまうんだね……」

アークの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

「可哀想に……。僕が、君のその心のトラウマを癒やしてあげるよ」

《聖なる同情ホーリー・ティアを確認。防御力-8000%》

「ぐ、あああああッ!!」

轟田がのたうち回る。

効かない。

聖女のヘイトを上回る速度で勇者の同情が轟田を侵食していく。

設定トラウマを勝手に作るな!

「アーク様……!なんてお慈悲深い……!」

マリエルが感動してうっとりしている。

ダメだ、敵の供給ヘイトが止まった。

「そうだ!明日の『大聖堂のミサ』においでよ!」

アークが名案とばかりに手を打った。

「最高司祭様の祈りを受ければ、君の心の闇もきっと晴れるはずだ。……うん、そうしよう!僕が特別席を用意しておくからね!」

「い、行かねぇよ……!」

「遠慮しないで。……君が笑顔になるまで、僕は諦めないから」

アークはキラースマイルを残しフルーツバスケットを置いて去っていった。

マリエルも「フンッ」と轟田を睨んでから(微回復)、後を追って出て行った。

嵐が去った後の部屋で。

轟田は真っ白な灰のようになっていた。

「……終わった」

「轟田……生きてる?」

アリスが恐る恐るつつく。

轟田は虚ろな目で呟いた。

「あいつ……本気だ。俺を『善人』にするまで、一生付きまとう気だ……」


「最悪のストーカーね」

レオが顔を引きつらせる。

「物理攻撃が通じない相手に、どうやって勝てばいいんですか?私の計算でもこたえが出ません」セレンも匙を投げた。

轟田猛、絶体絶命。

このままでは勇者の「更生プログラム」によって悪役としての自我が消滅しただの善人になって死んでしまう。

「……ミサだ」

轟田はゆらりと立ち上がった。

「明日のミサ……行ってやるよ」

「はぁ!?正気!?聖なる祈りなんて浴びたら、貴方消滅するわよ!?」

「逃げても無駄だ。あいつは世界の果てまで追ってくる。……だったら」

轟田の目に狂気じみた光が宿った。

「敵の本拠地リングに乗り込んで、あいつの『善意』ごと叩き潰すしかねぇ。……大聖堂を阿鼻叫喚の地獄に変えてやる!」

追い詰められた悪役の起死回生の逆襲。

舞台は聖教国の心臓部――大聖堂。神の御前で史上最悪の暴挙が幕を開ける。


(第20話へ続く)

天敵・勇者。

キラキラが痛い!

皆様のドロドロした評価こそが、今の彼には必要です!

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