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異世界極悪レスラー〜感謝されると即死するので、全力でヒール(悪役)を演じてたら世界最強の魔王としてバズっていた件〜  作者: 早野 茂
【第3章】聖女と勇者と極悪レスラー〜綺麗事を踏みにじる鉄槌〜

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18/40

第18話:天敵:キラキラしたアイツ

季節は巡り風に少しだけ冬の気配が混じり始めた頃。

轟田一座の四人は大陸中央部に位置する聖教国「ルティア」の国境を越えようとしていた。

「……オイ。なんだこの空気は」

轟田猛が馬車の窓から顔を出して顔をしかめた。

空気が「甘い」のだ。

物理的な匂いではない。

街全体を包む平和で、幸福で、慈愛に満ちたフワフワした雰囲気。

轟田にとって最も居心地の悪い空気だった。

「仕方ないわよ。ここは聖教国。女神教の総本山だもの」

御者台で手綱を握るアリスが苦笑いで答えた。

「『汝、隣人を愛せよ』が国是の国よ。争いごとはご法度。みんなニコニコ、仲良しこよしがルールなの」

「へぇ、反吐が出るな」

轟田は不愉快そうに唾を吐いた。

隣で白衣の少女――セレンが興味深そうに計測器を見ている。

「空間中の『正の感情エネルギー』濃度、基準値の300%。……轟田、あなたの体調に影響が出るレベルでは?」

「ああ。息をするだけで胸焼けがしそうだぜ」

轟田は胸をさすった。

この国に入ってからHPの自然回復量が低下している。

悪意がない世界はヒールにとって酸素の薄い高地のようなものだ。

「効率わりー国だな」

荷台の荷物(主にセレンの研究機材)の上でレオが欠伸をした。

「みんなが善人なんてあり得ないだろ。裏で誰かが汚れ役をやってるか、思考停止してるかのどっちかだ」

「カッカッカ!違いねぇ。……化けの皮、剥がしてやるのが楽しみだ」

轟田はニヤリと笑ったがその顔色は少し優れない。



聖都に入るとそこはお祭り騒ぎだった。

白い石造りの街並みに色とりどりの紙吹雪が舞っている。

沿道を埋め尽くす人々。

彼らの手には花束と国旗。

そして誰もが目を輝かせ、一方向を見つめている。

「キャーッ!アーク様ー!」

「勇者様!こっち向いてー!」

「世界を救ってくださりありがとうございます!」

黄色い声援。爆発的な歓喜。

パレードだ。

白馬に跨り銀色に輝く聖鎧を纏った金髪の青年が笑顔で手を振っている。

その隣には純白のドレスを着た清楚な美女――聖女が恥ずかしそうに俯いている。

「うわ……出たよ」

レオがげんなりした顔をする。

アリスも「あちゃー……」と天を仰いだ。

「勇者アーク・ライトニング。魔王軍の幹部を何人も倒している、人類最強の英雄よ。……よりによって凱旋パレードと鉢合わせるなんて」

《高濃度の「称賛」「感謝」「好意」を確認。持続ダメージ発生中》

「ぐ、ぅ……ッ」

轟田が胸を押さえてうずくまった。

物理的な攻撃ではない。

街全体に充満する「ありがとう」という巨大な善意の波動が轟田の呪いを刺激しているのだ。

「ま、マズいぞ……。この空間、俺にとっては毒ガス室だ……」

「轟田!?しっかりして!」

「ヤバいですね。このままだとショック死します」

セレンが冷静に分析し注射器を取り出した。

「気付けアドレナリンを打ちますか?それとも、ここで暴れてパレードを台無しにしますか?」

「バカ!ここで暴れたら聖騎士団に囲まれるわよ!」

アリスが止める。

だがその時だった。

「おや?そこで苦しんでいる方は……大丈夫かい?」

爽やかな声が降ってきた。

キラキラとした効果音エフェクトが見えそうなほどの極上のイケメンボイス。

顔を上げると白馬に乗った勇者アークが心配そうな顔で轟田を見下ろしていた。

「顔色が悪いね。旅の方かな?聖都の空気が合わなかったのかもしれない」

アークは馬を降り、自然な動作で轟田に歩み寄った。

群衆が静まり返る。

「勇者様が、あんな薄汚い男に……」

「なんてお優しい……」という感嘆の声。

ドクン、ドクン、ドクン!!

轟田の心臓が早鐘を打つ。

近い。

善意の塊が近づいてくる。

(来るな……!テメェのその笑顔は俺には猛毒なんだよ!)

轟田は後ずさろうとしたが体が重くて動かない。

アークは轟田の手を取り聖母のような微笑みを向けた。

「安心して。僕が回復魔法ヒールをかけてあげるよ。……困っている人を助けるのは勇者の務めだからね」

その言葉には一点の曇りもなかった。

純粋な善意。100%の親切心。

計算も見返りも求めない真の英雄の輝き。

《致死性の善意ピュア・ライトを確認。防御力-5000%》

《警告:魔法を受ければ即死します》

死ぬ。

ドラゴンのブレスでも機神のレーザーでも死ななかった俺が、この爽やか野郎の「親切」で殺される。

「や、やめろ……ッ!」

轟田は必死に声を絞り出した。

「遠慮しなくていいよ。さあ、女神の祝福を――」

アークの手が光り輝く。

絶体絶命。

その瞬間。

「……触るな、偽善者がァッ!!」

バチィッ!!

轟田は渾身の力でアークの手を叩き落とした。

乾いた音が響き渡り聖都の空気が凍りついた。

「え……?」

アークが目を丸くする。

群衆が息を飲む。

轟田は荒い息を吐きながら凶悪な形相で勇者を睨みつけた。

「気安く触ってんじゃねぇよ、キラキラ野郎。……テメェのその甘ったるい面を見てると、反吐が出るんだよ!」

「な、何を……」

アークがショックを受けた顔をする。

そこへアークの隣にいた聖女が一歩踏み出した。

「無礼者!アーク様の御厚意を無にするとは何事ですか!」

聖女の柳眉が吊り上がる。

群衆からも「そうだ!」「勇者様になんてことを!」という怒号が飛び始めた。

《敵対感情(民衆の怒り)を確認。HP回復開始……》

「……ふぅ」

轟田の呼吸が楽になる。

毒(善意)が消え、薬(悪意)が満ちてくる。

轟田はニヤリと笑い、わざとらしくアークの白馬の尻を叩いた。

「ヒヒーンッ!?」

馬が驚いて暴れる。パレードが台無しになる。


「カッカッカ!悪いな勇者サマ。俺様は生まれつき、光アレルギーなんだよ。……どきな、そこは俺様の通る道だ」


轟田はアークの肩を乱暴に押しのけ堂々と大通りの真ん中を歩き出した。

背中には数万人の罵声と勇者パーティからの冷たい視線。


こうして最悪の出会いは果たされた。

光の勇者と闇のプロレスラー。

混ぜるな危険の化学反応が聖教国を揺るがし始める。


(第19話へ続く)

平和すぎて死にかける主人公。

彼に酸素(悪意)を与えるため、下の星を黒く染めてやってください!

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