第15話:機神暴走! セレンの「計算」が壊れる時
「――報告。今回の探索におけるあなたの貢献度はマイナス評価です」
迷宮から帰還した直後のギルドにて。
換金された金貨の山を前にセレンは冷徹に言い放った。
「パズルの破壊。歴史的遺産の損壊。スフィンクスのPTSD発症……。知的探究心のかけらもありません。私の研究助手としては不合格です」
「誰が助手だ、誰が」
轟田はジョッキのエールを一気に飲み干しゲップを吐いた。
「金は稼げた。ボスは倒した。誰も死んでねぇ。……完璧な興行だろ?」
「プロセスが美しくありません!」
「効率も最悪だ」
レオが横から口を挟む。
「おっさんのやり方は運任せすぎるんだよ。スフィンクスがもし『物理無効』だったらどうするつもりだったの?詰んでたぜ?」
「ハッ!その時はその時よ。アドリブでなんとかするのがプロってもんだ」
轟田は全く反省していない。
アリスが「はぁ……」と深いため息をつく。
「この凸凹チーム、本当に大丈夫かしら……」
その時だった。
ウゥゥゥゥゥゥ――ッ!!
不快な警報音が再び街中に鳴り響いた。
だが今回の音は王都の時とは違う。
もっと甲高く、神経を逆撫でするような機械的なサイレンだ。
「……緊急警報コード・レッド?」
セレンの表情が一瞬で凍りついた。
彼女はガタリと席を立ち、窓の外――街の中央にそびえる『中央研究塔』を凝視した。
「おい、ありゃなんだ?」
轟田も窓の外を見る。
白亜の塔の中腹から黒い煙が噴き出している。
そして塔の壁面を突き破り「巨大な何か」が外へ這い出そうとしていた。
それは岩と金属で構成された巨人だった。
全身に青白い魔力回路が血管のように走り目にあたる部分からは暴走した魔力が赤い光となって漏れ出している。
全長は三十メートル超。
以前倒したドラゴンよりもさらに巨大だ。
「……『機神・ゴリアテ』」
セレンが震える声でその名を呟いた。
「学園が極秘裏に開発していた、対魔獣用・自律機動兵器……。まさか、起動実験に失敗したのですか?」
「兵器だァ?」
「理論上、最強の守護神になるはずでした。……あらゆる魔法攻撃を吸収し、自己修復し、敵を殲滅するまで止まらない。完璧なプログラムのはずなのに……!」
ズズズズズ……ンッ!!!
ゴリアテが塔から落下し地面に着地した。
凄まじい地響きと共に周囲の建物が倒壊する。
逃げ惑う学生や研究員たち。
ゴリアテは腕を振り上げ近くの校舎を一撃で粉砕した。
「うわぁぁぁぁっ!?」
「なんで制御できないんだ!」
「計算では完璧だったはずだろ!」
街中がパニックに陥る。
エリートたちの悲鳴。
轟田はそれを見てニヤリと口角を吊り上げた。
「カッカッカ!傑作じゃねぇか!」
「……何が可笑しいのですか」
セレンが鋭い視線を向ける。
「笑い事ではありません。あれは『魔法殺し』の特性を持っています。我々魔導師の攻撃は全て吸収されエネルギーに変換される。……つまり、この街の戦力では止められません」
「へぇ、詰んでるじゃん」
レオが他人事のように言ったがその顔には少し焦りが見える。
自分の信じる「効率」や「計算」が圧倒的な暴力を前に無力化されているからだ。
「轟田!避難するわよ!」
アリスが轟田の腕を引く。
「あのサイズは無理よ!それに魔法が効かないなら、セレンも戦力にならないわ!」
「避難?バカ言ってんじゃねぇよ」
轟田はアリスの手を振り払い窓枠に足をかけた。
「見ろよ、あいつらの顔を」
轟田が指差した先。
路上で腰を抜かしているエリート魔導師たち。
彼らの顔にあるのは死への恐怖だけではない。
「自分の正しさが通用しない」ことへの絶望的な混乱だ。
「教科書通りの答えしか知らねぇ連中が想定外の事態で思考停止してやがる。……最高の見世物だと思わねぇか?」
「あんたって人は……!」
「それにデカブツ相手なら俺様の独壇場だ。魔法が効かねぇ?関係ねぇな」
轟田は窓から飛び降りた。
ドスンッ!
路上に着地し混乱する群衆の流れに逆らって悠然と巨人の足元へと歩き出す。
「おい、そこをどけガリ勉共!メインイベントの時間だ!」
轟田の大声に逃げ惑う人々が足を止めた。
パンツ一丁の男がたった一人で破壊の化身に向かっていく。
正気ではない。
「な、なんだあの男は……?」
「自殺志願者か?」
「バカな、あんな質量に生身で勝てるわけがない!」
嘲笑。困惑。
そして「早く逃げろよバカ!」という苛立ち。
《侮蔑(常識的判断)を確認。筋力上昇(小)……防御力上昇(中)》
(……足りねぇな)
轟田は巨人の足元で立ち止まり遥か頭上を見上げた。
ゴリアテの赤い瞳が新たな標的(轟田)を捉える。
『ピピ……対象、敵性生体反応。排除シマス』
無機質な機械音声。
轟田は鼻で笑った。
「排除だァ?……おいおい、テメェを作った親と同じこと言ってんじゃねぇよ」
轟田は大きく息を吸い込み周囲のエリートたち、そしてゴリアテに向かって叫んだ。
「おい、そこの計算機!そしてそれを作ったマヌケな研究者共!」
戦場に声が響く。
「テメェらの自慢の『最高傑作』ってのは、随分と頭が悪そうじゃねぇか!デカいだけで芸がねぇ!こんなガラクタに税金使ってんのか?ええ!?」
ピキッ。
避難していた研究員たちの顔色が変わった。
恐怖の中に明確な「怒り」が混じる。
自分たちの研究を、知性の結晶を、ただの筋肉ダルマに愚弄された屈辱。
「き、貴様に何が分かる!」
「野蛮人が!死んでしまえ!」
罵声が飛ぶ。
ゴリアテもまた轟田の敵対行動を「最大脅威」と認定し巨大な拳を振り上げた。
『脅威度A。最大出力デ、粉砕シマス』
轟田の体が赤く発光する。
街中のエリートたちの「プライド」が憎悪となって轟田に降り注ぐ。
「カッカッカ!そうだ、インテリならもっと頭を使って俺を罵りやがれ!その高尚な悪口が俺様の力になるんだよォッ!!」
轟田は両手を広げ振り下ろされる鉄拳を待ち構えた。
「さあ来い、最新鋭のポンコツ!『旧式』の意地、見せてやるぜ!!」
(第16話へ続く)
機神ゴリアテ。
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