第14話:IQゼロの攻略法(ブルートフォース)
「――観察記録。対象は睡眠中も筋肉の硬直が見られない。常に臨戦態勢を維持している……異常な身体構造です」
翌朝。
轟田がふと目を覚ますと目の前にセレンの顔があった。
距離およそ5センチ。
彼女は無表情で轟田の顔面を至近距離から凝視し手帳に何かを書き込んでいた。
「……うおッ!?」
轟田は反射的に飛び起きた。
背筋に悪寒が走る。
「な、なんだテメェ!?寝込みを襲うとはいい度胸じゃねぇか!」
「おはようございます、実験体A」
セレンは悪びれもせず眼鏡の位置を直した。
「襲ってなどいません。寝顔から精神状態をプロファイリングしていただけです。……ちなみに、いびきの周波数が不快だったので、もう少し静かに呼吸するよう進化できませんか?」
「できるか!つーか勝手に人の部屋に入ってんじゃねぇ!」
《変態的執着を確認。精神的疲労により防御力上昇(小)》
朝から最悪の目覚めだ。
騒ぎを聞きつけたアリスとレオが隣の部屋から顔を出す。
「もう、朝からうるさいわね……って、セレン!?いつの間にそこに!?」
「鍵はかけてたはずだろ?どうやって入ったんだよ」
「鍵?あんな原始的な構造、ヘアピン一本で解錠できますが」
セレンは「何が不思議なの?」といった顔で首を傾げた。
その言葉にレオが反応した。
「へぇ……。やるじゃん、アンタ」
「当然です。セキュリティホールを突くのは研究者の嗜みですから」
レオとセレンの視線が交差する。
効率厨とマッドサイエンティスト。
二人の間に奇妙なシンパシーが生まれた瞬間だった。
「……気が合いそうだな、俺たち」
「ええ。あなたは合理的思考ができるようですし、あの筋肉ダルマよりは会話が成立しそうです」
ガッチリと握手する二人。
轟田とアリスは顔を見合わせ同時にため息をついた。
「……厄介な派閥ができちまったな」
「私の胃薬、足りるかしら……」
◇
その日轟田たちは学園都市の地下に広がる「知恵の迷宮」へ潜ることになった。
目的は資金稼ぎ。
セレンが「私の研究費の足しにしなさい」と勝手に高難易度クエストを受注してきたのだ。
「いいですか。この迷宮は、古代の賢者が作った試練の場です」
迷宮の入り口でセレンが講釈を垂れる。
「力任せの攻略は不可能です。複雑なパズル、高度な魔法知識、そして論理的思考力が試されます。……つまり、あなたの筋肉はここでは無価値です」
セレンは轟田を指差し冷徹に断言した。
隣でレオがニヤニヤと笑う。
「ドンマイ、おっさん。今日は荷物持ち(ポーター)に徹しなよ。頭脳労働は俺たち『インテリ組』に任せてさ」
「ケッ。御託はいいからさっさと進みやがれ」
轟田は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
四人は迷宮へと足を踏み入れる。
最初の難関はすぐに現れた。
通路を塞ぐ巨大な石扉。
そこには魔法文字で数式が刻まれている。
「……ふむ。魔方陣の結界ですね」
セレンが眼鏡を光らせた。
「この微分方程式を解き、魔力回路を逆算すれば開く仕組みです。……レオ、手伝いなさい」
「了解。変数は3つか……ここをバイパスすれば……」
二人は石扉の前に座り込みブツブツと計算を始めた。
アリスが感心したように見守る。
「すご……。私じゃちんぷんかんぷんだわ」
五分が経過した。
まだ開かない。
十分が経過した。
セレンとレオが議論を始めた。
「そこは虚数解を使うべきです」
「いや、こっちのルートの方が処理落ちしないだろ」
「美しくありません。再計算します」
「……あー、めんどくせぇ」
轟田が大きな欠伸をした。
退屈だ。
プロレスの試合中に客を十分待たせたら暴動が起きるぞ。
「おいガリ勉ども。まだか?」
「静かにしてください。今、繊細な思考プロセスに入って……」
「遅ぇんだよ!!」
ドゴォォォォォォンッ!!!
轟田のドロップキックが石扉に炸裂した。
計算も魔力回路も関係ない。
物理的な衝撃で分厚い石扉が蝶番ごと吹き飛び轟音を立てて倒れた。
「「はあ!?」」
セレンとレオが同時に叫んだ。
轟田は砂埃を払いながらニカっと笑った。
「開いたぞ」
「開いたぞ、じゃありません!」
セレンが珍しく声を荒げた。
「古代の遺産になんてことを!それに、その扉には物理攻撃反射の術式が……」
「あ?なんかピリッとしたな。静電気か?」
「反射ダメージを筋肉で無効化した!?……常識が通じないにも程があります!」
セレンが頭を抱える。
レオも呆れ顔だ。
「野蛮すぎるだろ……。これだから脳筋は……」
《侮蔑(ドン引き)を確認。防御力上昇(小)》
「行くぞ。迷子になりたくなけりゃ付いてきな」
轟田は我が物顔で先へ進む。
アリスだけが「まあ、結果オーライよね」と苦笑いしていた。
◇
その後も轟田の暴走は止まらなかった。
『沈黙の回廊』――音を立てるとトラップが発動するエリア。
轟田は大声で歌いながら進み発動した矢の雨をすべて胸板で弾き返した。
『幻影の鏡』――己のトラウマを見せる精神攻撃エリア。
轟田は鏡に映った自分を見て「今日も男前だぜ!」とポーズを決め鏡が自己崩壊した。
そして最深部。
ボス部屋の前には巨大なスフィンクスが鎮座していた。
『我は問う――』
スフィンクスの重厚な声が響く。
『朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これ、なーんだ?』
古典的ななぞなぞだ。
セレンが即座に前に出た。
「簡単ですね。答えは『人間』です。幼少期はハイハイで四本、成長して二本、老後は杖をついて三本……」
『正解である。では第二問――』
「まだあるのかよ」
轟田が舌打ちする。
『我は問う。有って無きもの、無くて有るもの。形を持たず、しかし世界を満たすものとは?』
「……概念的な問いですね」
セレンが思考モードに入る。
レオも腕を組んで考える。
『答えよ。さもなくば通れぬ』
スフィンクスが得意げに見下ろしている。
その「勿体ぶった態度」が、轟田の逆鱗に触れた。
「……オイ」
轟田がスフィンクスの前に歩み出た。
「クイズ番組の収録じゃねぇんだぞ。……テンポが悪ぃんだよ、三下!」
『なっ……!?』
轟田が跳んだ。
答えを言う代わりに、スフィンクスの顔面に強烈なラリアットを叩き込む。
『ぐべぇっ!?』
「答えは『暴力』だオラァッ!!」
ドッッッゴォォォォンッ!!!
スフィンクスが吹き飛び、壁に激突して気絶した。
静まり返るボス部屋。
セレンが震える手で眼鏡を押さえた。
「……野蛮。蒙昧。知的生命体としての尊厳が欠如しています」
「うるせぇ。客が正解って言えば、それが正解なんだよ」
轟田は気絶したスフィンクスを踏みつけ勝ち誇ったように腕を上げた。
「見ろ!俺様のIQの高さに、スフィンクスもぐうの音も出ねぇようだぜ!」
「……IQの意味、絶対間違ってますけどね」
レオのツッコミも虚しく、轟田一座は(主に轟田の暴力で)迷宮を完全攻略したのだった。
知性0vs100。
勝者、筋肉。
(第15話へ続く)
IQゼロの攻略法。
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