第13話:天才魔導師の「解剖」執着(ラブコール)
「――実験開始」
セレンが白衣のポケットから魔石を取り出し宙に放った。
パシッ、パシッ、パシッ。
無機質な音が響き石畳から数体の「人型機械」が出現した。
無機質な金属のボディ。
手には魔導ブレード。
学園都市が誇る自律警備システムだ。
「対象筋肉ダルマ。捕獲レベルA。
……四肢を切断してでも確保しなさい」
セレンの冷徹な命令。
オートマタたちの目が赤く光り一斉に轟田へ襲いかかる。
「オイオイ、いきなり凶器攻撃かよ!反則だぞ審判!」
轟田は笑いながら先頭のオートマタのブレードを白刃取りした。
ガギィッ!
金属同士が擦れる音がする。素手だ。
「……信じられません」
セレンがメモを取りながら呟く。
「皮膚強度がミスリル合金を超えている?物理的にあり得ない数値です。あなたの表皮組織は一体どうなっているのですか?」
「カッカッカ!鍛え方が違うんだよ!テメェらの作る柔ぇ鉄屑とはなァ!」
轟田はブレードごとオートマタを持ち上げ別の個体に投げつけた。
ガシャンッ!二体が絡み合って火花を散らす。
「非効率ですね」
セレンは眉一つ動かさず淡々とダメ出し(ディス)を続ける。
「今の投擲動作において無駄な筋肉の収縮が3箇所ありました。エネルギーロスです。もっと関節の可動域を最適化すれば、30%少ない力で破壊できたはずです」
《侮蔑(効率厨)を確認。筋力上昇(中)》
「うるせぇよ!俺様は『魅せる』ために動いてんだ!」
轟田は残りのオートマタにラリアットを叩き込んだ。
ドッッゴォォン!!
首が飛び胴体がひしゃげる。
一撃必殺。
だがセレンの分析は止まらない。
「あのような大振りな攻撃、当たる方が不思議です。
……ふむ敵の回避プログラムが『恐怖』によってバグを起こしている?
機械に感情はありませんが魔力回路に干渉する威圧感……興味深い」
セレンの瞳が妖しく輝く。
彼女にとって目の前の光景は戦闘ではない。
未知の現象の観測だ。
「もっとサンプルが必要です。――増援」
セレンが指を鳴らす。
空間が歪みさらに十体、二十体のオートマタが転送されてくる。
通りを埋め尽くす機械の軍勢。
アリスが悲鳴を上げた。
「ちょっと!警備ロボットを私的利用しないでよ!これ税金でしょ!?」
「研究への投資です。……行け」
機械の大群が轟田に殺到する。
轟田はニヤリと笑い首を回した。
「上等だ。纏めてスクラップにしてやる!」
轟田が敵陣に飛び込む。
殴る。投げる。へし折る。
金属片が雨のように降り注ぐ中、轟田のテンションは最高潮に達していた。
(……いいぜ、この女)
轟田はチラリとセレンを見た。
彼女は安全圏から一歩も引かずにこちらを観察している。
恐怖も怒りもない。
あるのは純粋な「知的好奇心」だけ。
俺が暴れれば暴れるほど彼女は目を輝かせ俺を「解剖」したがる。
その歪んだ欲望が俺の細胞を活性化させる。
「オラオラァ!データは取れたか天才サマ!」
轟田は最後のオートマタを踏み潰しセレンの目の前に着地した。
ドスンッ!石畳が割れ土煙が舞う。
鼻先数センチの距離。
轟田の全身からは湯気が立ち上り返り血で真っ黒だ。
普通の人間なら失禁して逃げ出す威圧感。
だがセレンは――
「……素晴らしい」
うっとりとした表情で轟田の上腕二頭筋に手を伸ばした。
「なっ……!?」
轟田が意表を突かれて固まる。
セレンの冷たい指先が熱を帯びた筋肉に触れる。
「硬度、弾力、熱量……すべてが規格外。脳からの電気信号をどうやって筋肉に伝達しているのですか?神経系が特殊な進化をしている?それとも魔力によるドーピング?」
「お、おい……」
「切り開いて見てみたい。この皮膚の下はどうなっているの?心臓は?脳は?ああ、想像するだけで知的興奮が止まりません」
セレンは恍惚とした瞳で轟田を見上げ――いや、「轟田のパーツ」を見つめていた。
彼女の目には轟田という人間は映っていない。
ただの魅力的な「肉塊」としてしか認識されていない。
《変態的執着を確認。悪寒により防御力上昇(特大)》
「……チッ。イカれてやがる」
轟田は乱暴にセレンの手を振り払った。
気味が悪い。
だがそれ以上に「面白い」。
ここまで自分の「人間性」を無視してくる奴は初めてだ。
「おいガリ勉。俺様の中身が見たいなら、まずはその『上から目線』をどうにかしな。俺様を見下ろしていいのは、リングの上だけだ」
「見下ろしてなどいません。観察対象として対等に扱っています」
「それが上からだって言ってんだよ!」
その時遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
騒ぎを聞きつけた本物の衛兵隊が近づいてくる。
「轟田!ずらかるわよ!」
「マジでやべーぞおっさん!」
アリスとレオが叫ぶ。
これ以上暴れれば学園都市全体を敵に回すことになる。
「……ケッ。興行はここまでか」
轟田は踵を返した。
「あばよ、天才サマ。命が惜しかったら、二度と俺の前にツラ見せんじゃねぇぞ」
捨て台詞を残し轟田たちは路地裏へと消えた。
残されたのは残骸の山と一人佇むセレンだけ。
衛兵たちが駆けつけてくる。
「セレン様!ご無事ですか!?あの侵入者は……」
「……逃げられました」
セレンは眼鏡の位置を直した。
その表情はいつもの冷徹な仮面に戻っていた。
だがその手にはしっかりと、轟田から剥がれ落ちた「皮膚片」と「血液」が付着したハンカチが握られていた。
「ですが、DNAサンプルは確保しました」
セレンはハンカチを試験管に入れ妖しく微笑んだ。
「轟田猛……。あなたは私のものです。必ずその秘密、暴いてみせます」
◇
「はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫か」
都市の隅にある安宿街。
轟田たちは一息ついていた。
「もう!なんなのよあの女!変態にも程があるわ!」
アリスが憤慨する。
「学園都市の治安委員長?あんなのがトップだなんて、この街の教育はどうなってるのよ!」
「全くだ。……だが面白い客を見つけたぜ」
轟田はニヤリと笑った。
あの女は俺を否定しない。
ただひたすらに「分解」しようとする。
それはそれで極上のスパイスだ。
コンコン。不意に路地裏のドアがノックされた。
「……誰だ?」
轟田が警戒する。
衛兵か?それとも追手か?ガチャリとドアが開きそこに立っていたのは――
「失礼します。ここがあなた方の潜伏先という計算が出ました」
白衣を纏ったプラチナブロンドの少女。
セレン・アルカディアだった。
手には大きなトランクケースを持っている。
「なッ……!?なんでここに!?」
「追跡魔法です。あなたの汗の臭いをたどりました」
セレンは平然と部屋に入り込み勝手に椅子に座った。
「あなた方の監視および研究のため本日より同行させていただきます。
……拒否権はありません。断れば先ほどの騒動の賠償金を請求します」
「はあああああ!?」
アリスとレオが絶叫する。
轟田だけが呆れたように、しかし楽しそうに笑った。
「カッカッカ!ストーカーかよ。
……いいぜ、かかってこい天才サマ。
俺様の秘密暴けるモンなら暴いてみやがれ!」
こうして最悪に頭のいい「変態」がパーティに加わった。
筋肉、騎士、クソガキ、そしてマッドサイエンティスト。
轟田一座の混沌は、加速する一方だった。
(第14話へ続く)
マッドサイエンティストなストーカー。
轟田の安否を気遣ってくださる方は、評価をお願いします!




