第11話:偏差値の壁?筋肉でブチ壊せ
その街はあまりに静かだった。
轟田たちが辿り着いたのは大陸随一の知識の集積地――魔法学園都市「ソフィア」。
城壁はない。
代わりに街全体を巨大な半透明のドーム状結界が覆っている。
中に入れば幾何学的に整備された白い石畳。
空には小型の自律魔導具が飛び交い街灯は魔石の光で青白く輝いている。
「へぇ……。こりゃすげえや」
レオが目を輝かせて周囲を見回した。
「完全な区画整理。自動化されたインフラ。
無駄が一切ない。
……最高じゃん、この街」
「そうか?俺には息が詰まりそうな街に見えるがな」
轟田は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
空気が「堅い」のだ。
王都のような熱気も田舎のような牧歌的な空気もない。
行き交う人々は皆、ローブを纏い分厚い本や羊皮紙を抱え早足で無言のまま通り過ぎていく。
「なんだアイツら。お通夜の帰りか?」
「失礼なこと言わないでよ、轟田」
アリスが小声で窘める。
「ここは学術都市よ。大陸中からエリート魔導師や学者が集まっているの。皆、研究でお忙しいのよ」
「ケッ。勉強のしすぎで脳みそが萎縮してんじゃねぇのか」
轟田はあからさまに退屈そうに欠伸をした。
この街にはプロレスに必要な「熱狂」がない。
あるのは冷徹な「静寂」だけだ。
その時。
前方から歩いてきた数人の集団が轟田の前で足を止めた。
揃いの群青色のローブを着た若い男女だ。
胸には学園のエンブレム。
この街のエリート学生だろう。
「……なんだ、この異物は」
リーダー格の眼鏡の男が侮蔑を隠そうともせずに呟いた。
その視線は轟田の黒パンツと筋肉に向けられている。
「おいおい、見ろよあの格好。露出狂か?」
「野蛮ね。知性が感じられないわ」
「質量過多だ。非効率的な肉体構造をしている」
クスクスという笑い声。
だがそれは、王都の冒険者たちのような「粗野な嘲笑」ではない。
自分たちの方が知能が高いと確信している者特有の、「冷たい見下し」だ。
《侮蔑(知的選民意識)を確認。精神耐性上昇(小)》
「……あァ?」
轟田の眉がピクリと動く。
悪口には慣れている。
だがこの手合いの「上から目線」は、生理的にイラつく。
「おいガリ勉共。俺様のファッションに文句があるなら、もっとデカい声で言ってみろ」
轟田が一歩踏み出すと、学生たちは怖がるどころか呆れたように肩をすくめた。
「やれやれ。これだから脳筋は困る」
「言語によるコミュニケーション能力が欠如しているようね」
「関わるだけ時間の無駄だ。行こう」
彼らは轟田を「脅威」とすら見なさなかった。
道端の石ころか、あるいは理解不能な猿を見るような目で一瞥し通り過ぎようとする。
無視。
轟田にとって、最も許しがたい侮辱。
「……待ちやがれ」
轟田が太い腕を伸ばし、眼鏡の男の肩を掴んだ。
ガシッ。
「俺様を無視して通れると思ってんのか?通行料だ。俺様を笑った理由を、三行で説明しな」
「っ……!野蛮な……放したまえ!」
男が顔をしかめる。
周囲の学生たちが杖を構えた。
「暴力を行使する気か!」
「衛兵を呼ぶわよ!」
「呼べよ。ついでにテメェらの頭の悪さも宣伝してやる」
一触即発。
アリスが慌てて割って入ろうとした時レオがため息交じりに口を開いた。
「はぁ……。やめときなよ、アンタら」
レオは轟田と学生たちの間に立ち冷めた目で学生たちを見た。
「アンタらの言ってることは正しいよ。こいつは野蛮で、非効率で、頭の悪い過去の遺物だ」
「なっ、レオ!?」
アリスが驚く。
「でもさ。……アンタらのその『貧弱な杖』じゃ、この遺物には傷一つつけられないぜ?」
レオはニヤリと笑った。
学生たちがムッとする。
「なんだ君は。子供のくせに……」
「事実を言っただけだ。偏差値で勝てても物理で負けたら死ぬのはアンタらだ。……賢いなら、撤退するのが『最適解』だろ?」
学生たちは顔を見合わせ悔しそうに唇を噛んだ。
論理的にはレオの言う通りだ。
この巨漢と乱闘になれば無傷では済まない。
「……フン。野蛮人に関わった私たちが愚かだったな」
「行こう。知能指数の低い空気を吸いたくない」
学生たちは捨て台詞を吐いて足早に去っていった。
轟田はその後ろ姿を見送り不満げに舌打ちした。
「チッ。腰抜け共が。インテリってのは喧嘩の仕方も知らねぇのか」
「感謝しろよ、おっさん。無駄な揉め事を回避してやったんだ」
レオが得意げに胸を張る。
だが轟田はレオの頭を小突いた。
「余計なことすんな。あいつらが杖を抜けば、正当防衛でボコれたのによォ」
「……アンタ、本当に更生しないな」
アリスは頭を抱えた。
だが轟田の視線は鋭く街の中央にそびえ立つ巨大な塔――学園の中枢を睨んでいた。
「気に入らねぇな、この街は」
「そう?」
「あいつらの目は死んでやがった。『理屈』って檻の中に閉じこもって、感情を殺してやがる。……あんなのは『賢い』とは言わねぇ。『退屈』って言うんだよ」
轟田はボキボキと拳を鳴らした。
「いいぜ。この街の自慢の『偏差値』とやら、俺様のプロレスで粉々に粉砕してやる。……面白くなってきやがった」
理屈の通じない暴君が理屈の街に牙を剥く。
しかし彼らはまだ知らない。
この街には轟田の「筋肉理論」さえも論破する最強の毒舌魔導師がいることを。
(第12話へ続く)
魔法都市ソフィア。
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