絶望を覚悟しろ
沈黙が、彼らが選択をしたことを意味していたと、俺は知るべきだった。
アラームはまだ鳴り響いている。怪物は自由だ。上階から悲鳴が響く——肉が裂け、金属が潰れ、現実が歪む。しかし、制御室の中、強化ガラスの向こうで、奴らはただ俺を見つめていた。
誰も扉を開けようとしない。
「ダメだ」と俺はつぶやいた。「やめろ、そんなことするな」
彼らの顔は凍りついたまま。アシュウィン。ザラ。少尉ミコ。ユイでさえ、まだオーバーライドキーに手を置いている。
俺はガラスを叩いた。「俺をここに閉じ込めるなんてできるか!」
「封じ込め違反。レベル7エンティティ」システムが頭上で無感情に告げる。「速やかに避難せよ」
だが、奴らは動かない。
アシュウィンがインターホンを押す。声は低い。「お前だけは、即死しない。……食らう前に観察するのだ」
「この野郎——」
ユイが身をすくめた。「ごめんなさい、カイウス」
そして彼女は鍵を回した。外扉が閉まる。骨の奥まで響く衝撃を感じた。
「俺たちはチームだって言っただろ!」俺は叫んだ。「一人が死んだら、全員死ぬって!」
「そうだ」とアシュウィンは平らな目で言った。「嘘だった」
俺は見つめた。ほんの一瞬、アラームの音も、廊下で唸るあいつの声も聞こえなかった。
聞こえるのは、奴らだけだった。
ザラの瞳の恐怖。ユイの顔の罪悪感。ミコは興味なさげな顔のまま。そしてアシュウィン——かつて兄と呼んだ男——俺の死刑宣告に笑みを浮かべる。
そしてガラスが暗くなった。
背後の扉から、怪物が入ってきた。
俺は逃げなかった。叫ばなかった。
向き直った。
爪とワイヤー、そして現代では理解できないほど古い存在で構成された獣。目も口もない。しかし、笑っている気がした。
最後に覚えているのは、あいつが飛びかかってきた瞬間だ。すべてが虚無になった——思考も心臓の鼓動も、感覚すらも消えた。
そして……
俺は血で息をするように目を覚ました。
空気じゃない――血だ。誰かの、他人の。喉が焼けるように痛む。肺がパニックを起こす。背中には冷たい石。縛られている——腕も足も首も。
視界が揺れる。
人々が唱えている。
「呪われし者を捧げろ、呪われし者を捧げろ」
前方で焚き火が燃え盛る。俺は逆さまに、木の柱に縛られ、焼かれる肉のように吊るされていた。
なんてこった——
すべてが蘇った。
実験室。怪物。裏切り。
アシュウィンの声。「俺たちは嘘をついた」
体をひねり、咳をし、叫びを吐き出す。「俺はまだ生きてるぞ、クソ野郎ども!」
群衆が息を呑む。
誰かが松明を落とした。女性が悲鳴をあげる。子供が泣き始めた。
「話してる……目覚めたな」誰かが囁く。
法衣を纏った男が前に出る。目は深く窪み、骸骨のようだ。「呪われし者は器の中で目覚めた。十年……それでも刻印は残る」
手を掲げる。
群衆が道を開く。
深紅の巫女が前に進み、黒曜石の短剣を握る。
「この子は、忘れられし神々の穢れを背負う。捧げねば、血潮は戻る」
もう、戻らない。
まぶたの裏に画面が点滅する。彼らには見えないが、俺にはガラスのように鮮明だ。
【SYSTEM BOOTING…】
ホスト署名検出:カイウス・マレン
年齢:10
レベル:1
適性:論理 [基礎], テレキネシス [基礎]
状態:ソウルボンド完了
記憶統合率:93%
手はまだ縛られていたが、頭は既に回転していた。
アシュウィンは俺を裏切り、怪物は俺を貪った。
では、なぜ奴らが柱に縛られていないのか?
――もしや——
上を見上げる。
群衆の中で、誰かが動いた。顔。見覚えがある。
ザラ。
十年分歳を取った。マントを纏い、俺に気づかぬふりをしている。
奴らがいる。
全員が。
転生して。
見守っている。
なぜなら、奴らもあのメッセージを受け取ったからだ。
「一年以内に殺し合え。生き残るのは一人。残りは消える」
これは救済ではない。
これは罰だ。
抵抗をやめた。
代わりに、微笑んだ。
巫女が短剣を高く掲げ、炎で俺を包もうとする。
だが、もう恐くない。
すべてを思い出した今、二度と奴らを全員巻き込まずには死なない。
巫女の詠唱が始まる。群衆がそれに応え、声を高める。恐怖に酔った狂信者たち。
だが、俺は微笑んだまま。
「一年……」自分に囁く。「そして生き残るのは俺たちのうち一人だけ」
言葉を心に巻き付ける。生き残る一年。狩る一年。苦しめる一年。
指先が動く。ほんの一瞬だけ。
黒曜石の短剣が炎に光り、降りてくる。
しかし、炎は逆方向に曲がる。
風が広場を吹き抜ける。空が一瞬、静止した青に点滅——まるでシステムのバグのように。
短剣は空中で止まる。
巫女は固まる。口は動くが音は出ない。
俺は逆さまに、微笑んだまま、彼女の目を見る。
「絶望を覚悟しろ」と囁いた。
そして世界が真っ二つに裂けた。