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はぁ〜踊り踊るなら


『ちゃら〜ら、ちゃぁ、ちゃらちゃ〜らら、うっはぁ!』


 それは一昔前に国内で流行ったダンスミュージックだった。

 歌っているのは確か昔の時代劇に出演していた女優さんだったはず。


 髪を結って金ピカの着物にでっかいフラミンゴみたいな羽を背負って、手にはジュリ扇を持って歌っていた。


 リズミカルでノリが良く、子供たちまで口ずさむほど流行った。あたしだって知ってる。なんならカラオケで歌ったこともある。


 でもホンモノのサンバとは程遠い。演歌にダンスフルなロックを振りかけ、盆踊りで割ったような歌謡曲だ。


 だけどノリが良くて嫌いになれない。

 お腹の底から明るい気分になるのだ。


「はぁ!よっと」


『来い来いセニョリータ。踊ろうよアニータ』


「はぁい、はい」


 運転手が曲に合わせてマラカスを振る。


『ビバ、セニョール!ビバセニョリータ!歌え踊れば世界はひとつ』


 時代劇の女優なのに歌がメチャ上手い。

 ノリノリで腰を振り着物の裾を持って脚を出し、ジュリ扇振りながら踊る姿がすぐに浮かび上がる。


『踊ろよアミーゴ。青春アミーゴ。恋したっていいじゃないビバサンバぁ!』


 運転手は、まるでメタルバンドのヘッドバンキングよろしく、頭まで激しく振って車の周りを踊りながら回っている。


 なんなのこの光景。

 混沌……そうまさしくカオス。


 異様を通り越して不気味よね。誰か見てたら警察呼ばれるわよ。マジ警察案件。


 もしかしてあたしも逮捕されちゃうんじゃない。

 けどそんな心配などお構いなく、運転手の踊りはいっそう激しさを増していく。


 狂ったように頭を振りマラカスを鳴らす。

 頭とマラカスどっちが楽器だかわからないわ。


 ヤバい。変な儀式めいてきた。


 これは近所から苦情出るよ……絶対に警察呼ばれる。


『ビバ、セニョール!ビバセニョリータ!歌え踊れば世界はひとつ。お嫁においでよサンバ!』


「ねぇ、ヤバいわよ。あなたも訳ありなんでしょう。警察呼ばれる前に逃げよ」


 隣に座る女の手を引いた。

 だけどその手は冷たく銅像のようにびくともしない。


「ねぇ聞いてる。あなた逃げないと……」


 え?

 歌ってるの?


 小さな蚊の鳴くような声だけど、確かにワンピースの女が歌を口ずさんでる。


 それに肩を揺らしてリズムまでとってる。


「もしかして……この歌好きなのーー」


『来い来いセニョリータ。踊ろうよアニータ』


「はぁ!はぁ!ヨイショ!」


 運転手の奇行は極まってきた感がある。まるでトランス状態になったイタコのよう。


 マラカスと一緒に頭を振り、飛び跳ねるように車の周囲を踊り回る。その姿はまさに人間マラカスね。


 ヤバい。完全にヤバい儀式だ。この運転手いつやったか知らないけど絶対にクスリやってるな。それもかなりヤバいのきめてる。ガンギマリじゃん。


「あらよっと!」


 合いの手ーー曲調ガン無視して全く意味不明。


『踊ろよアミーゴ。青春アミーゴ。恋したっていいじゃない、びばビバサンバぁ!』


「ねぇほんとヤバいって。早く車から出よう」


 もう一度、女の手を握った……はず。

 でもあたしの指は空気を掴んだ。

 なになにどうした?


 顔を上げると、白いワンピースの女の姿が儚く透けている。


 ええぇぇ!


『ビバサンバぁ』


「サンバ」


 運転手が叫ぶ。


「サンバ!」


 透けてる女が叫んだ。


 今まで蚊の鳴くような声で歌っていた女が、叫んだのだ。


 怖っーーというより、見惚れてしまった。


 なぜならとても楽しそうだったの。

 なんか死人か幽霊みたいだった女が、明るく生き生きと楽しそうに肩を揺らしていたから。


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