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震えが止まらないのは

エントランスを駆け抜けてエレベーターに飛び乗る。


 どんな顔で会えばいい。なにを言えばいい。

 自分勝手でワガママな女の言葉に謙二は耳を貸してくるだろうか?


 どの面下げてきたんだ。顔も見たくない。

 帰れ!


 きっとドアも開けてもらえず、追い返されるかもしれない。


 違う。謙二はそんな男じゃない。それは誰よりもあたしが知っている。


 知っていて、それにつけ込もうとしている卑しい女なんだ。

 こんなあたしが、謙二の元へ帰る資格があるのだろうか。


 考えもまとまらないうちにエレベーターが止まった。


 誤解……違う。五階だ。

 エレベーターを降りて廊下を進む。

 もう力のないあたしの足取りじゃ、足音も響かない。


 ごめんーーごめんね謙二。

 あたしが馬鹿だった。


 かけがえのないアナタの優しさに気がつかず、泥を塗って捨てたバカな女。


 もしも許してくれるなら……ううん。許してくれなくてもいい。

 せめて、ドアを開けて顔を見せてくれれば、それだけで充分。

 あたしはやり直せる。


 謙二が隣にいなくても、あたしは新しい一歩を踏み出せる気がする。


 だからーーごめん。本当にごめんなさい。


 最後だから。

 これで最後だから。


 震える指先がインターホンを押せずに止まる。

 怖い。


 当たり前かもしれないけど、拒絶されたら、あたしは何処へもいけなくなってしまう。


 それが怖い。

 お願いします。本当にこれが最後の我儘だから。


 指先が震える。

 指だけじゃない。身体が震えているんだ。


 怖い。

 ごめんなさい。

 会いたい。

 許して。


『……待ってますから』


 それは誰の声だったかな。

 ふっと、風が背中を押した…気がした。


 ピンポン


 チャイムが鳴った。


 怖い。

 身体の芯から震えが止まらない。


 一秒、二秒、三秒ーー沈黙が死刑宣告のカウントダウンのようだ。


 四秒、五秒……


 留守なのかな。でも電気はついてる。

 でも反応がない。


 七秒……八秒……



 もうダメだ。


 逃げ出してしまいたい。


 無理。

 帰ろう。


 逃げ出そうと、パンプスのつま先が外を向いたその時だった。


『ーーどちら様ですか』


 懐かしい声がインターホンから溢れた。

 謙二だ。謙二の声だ。


 涙が溢れた。

 喋ろうとしても言葉が詰まる。


『ーーどちら様ですか』


 もう一度、謙二は言った。


 あ…ぁたし…さつーー


『さつきか? もしかして、さつきか?』


 謙二があたしの名前を読んだ。

 あの時と変わらない優しい声で。


 あぁ、嬉しい。

 胸の奥から温かいものが溢れてくる。


 それだけで、涙が止まらない。

 謙二、あたし……ごめんなさい。


『まってろ。今開けるからどこにも行くな』


 もう充分。

 ありがとう。

 これ以上はバチが当たる。もうコレだけであたしは……あたしは充分に満たされた。


 ありがとう謙二ーー


「さつき!」


 ドアが開き、そこにあたしの愛しいひとがいた。


 ごめんなさい。

 そしてーー


 ありがとう……

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