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懐の狭い短編集

確かに一理

 確かに一理あるというのは趣味を深めていく過程において、そんなに一人で突っ走ってどうするのということだ。それを他人と共有し合う時間のために娯楽はあるのでしょと、そういうことだった。彼女はその辺りけっこう分別ある人で、ここで間違っても舌を肥えさせる話を同列として持ち出したりはしないのだった。

 僕は変換という行為が好きで、つまり分別のあるがままでいてしまう人にはあまり興味が持てなかった。評判かあるいはそれ以外の何かを気にするあまりに最上の分別を身に着け、今ではすっかりその甲羅から脱げ出せなくなっている。亀よりも消極的に、これは喧嘩を避ける目的などないが決して批判をしているわけではない。というのは、せいぜい60年だ。そのままで60年くらいならきっと間に合うだろうから、別に僕の意見を耳に入れる必要はないわけだ。僕の思想は無限のリソースを前提としているため、もちろん現実的であるはずがない。この状況はお互いにすれ違っているようにみえて、僕が一方的に避けているだけなのである。僕が誰かと対峙するときはたいていそうなりがちであり、相手との接触を避けるため必死の観察をし、その視点を描いている。これから先のビジョンもなく、たった今を避けきることだけに全神経を注いでいる。どんなシチュエーションであっても、一瞬だけを切り取った場合、このまま崩れてしまいそうな緊迫を免れることはできないし、ギリギリのところで均衡を保っている瞬間はどれも力の衝突から光を放っていた。

 会話の際中にこんなことを考えていれば、聞き取り能力を著しく失ってしまう典型だった。話し相手に手ごたえがないときにクールダウンするかヒートアップするか、彼女はその後者らしかった。そのまま泣き崩れてしまう人もいたりするが、前述のとおり分別があるのだ。喧嘩になる手前で感情をお持ち帰り、もう僕らは長く続かないだろう。僕は昔から長く続けることを目的にすると、相手への気遣いの演算が終わらずに結果破綻し、逆に始めからどうでもいいと思って接すると、本当にどうでもよくて破綻していた。悩みではない。悩みというのは交友関係のスパイスに添えるためのものであって、避けることに夢中な僕には今この瞬間しかないわけだ。過去はみるみるうちに消滅して、信用経済が横行する時代には不向きな性質だ。電気蛇の空襲とともに歴史に名を埋めてしまいたかった。丸めた跡の八方に走った紙と紙が寝ている顔を挟んで、これは冬にだけ温かく思えた。机に頭を垂れているのもそろそろ終わりだ。寒くて夜は眠れなくなる。今のうちに明かりを溜めておけば2時間後の25時までには間に合う予定だった。僕にだって予定はある。明日になれば目が覚めて顔を洗って、食べたり飲んだり歯磨きだってする。このとき頭の中で明日の自分が手のひらサイズの小ささで想像されるのであれば、それは少し自分のことを可愛がり過ぎているのだという自覚を持っておいた方がいい。何か行動すればそこに必ずミスが含まれてしまう以上、自覚がある分ソイツはかなりマシなるんだ。神は細部に宿った。

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