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八朔少尉は乙女の枠におさまらない  作者: 卯月みそじ
第二章 純情は苛烈にして渇仰は犬の如く
46/116

2-10


「失礼しますね」


 柔らかい声だった。

 十五歳共の青春に巻き込まれ、苦悩の渦中にあった藤堂綜士郎は顔を上げる。声の調子から言って、料亭の従業員ではなさそうだ。

 障子戸をそっと開けて入ってきたのは、類を見ない美女である。太華の衣装らしき旗袍を上品に着こなし、長い髪はゆるくまとめている。顔立ちは──さきほど綜士郎へ恋の宣戦布告を行った、清澄美千流によく似ていた。


「初めまして、清澄京華と申します。美千流の姉です」


 女は綜士郎の真向かいへ座ると、魅力的な笑みで名乗った。

 姉。道理で美千流と似ているわけである。


「はぁ……あの子、家族同伴だったのか……」

「ふふ。美千流、八朔くんのこと引っぱたいてました」

「それだけのことをしましたよ、あいつは」


 綜士郎の返答に京華は笑みを深める。そんな美女へ、綜士郎は怪訝な眼差しを送った。悪い予感がする。


「……それで、美千流さんのお姉さまとやらは、うちの部下の失態に文句のひとつでも言いに来られたので?」

「違います。お見合い第二回戦を申し込みに参りました。今度の挑戦者は私です」

「断る!」


 予感的中だ。残念ながら、綜士郎に第二回戦を開催する予定はない。たとえ相手が絶世の美女であっても、綜士郎には伴侶を作るつもりは一切なかった。

 にべもなく拒否する綜士郎へ、京華はまったく優美な態度を崩さない。


「ふふふ、かたくなね。ま、別にいいわ、お見合いと思わなくても。ただ私と話してくれるだけでいいの。ちょうど先々月に太華から帰国したばかりでね、こっちにあまり知り合いがいないの。同年代の人と話せる機会なんて貴重だわ」

「太華?」


 そこで改めて綜士郎は美女の出で立ちを見た。黒基調の詰襟の衣服は、現在太華で主流の装束だったはずだ。

 綜士郎の興味を誘ったのはその「太華」だ。八洲西方にある大陸の大国で、古来から八洲とは様々な形で関わりあってきた異邦である。綜士郎は外国に興味がある。


「そう、太華。亮州(りょうしゅう)燕陽(えんよう)って聞いたことある? 私、そこで十何年かくらい生活してたの」

「亮州か……湖畔の街で有名な場所だな、確か」


 綜士郎は以前書籍で読んだことがあった。亮州燕陽は湖に面した街で、北方に高い山を持ち、街中の往来には湖水を利用した用水路がいくつも設けられているという。水路が幾多も横切る街には秀麗な橋がいくつも架かり、東洋でも白眉の景観を成しているそうだ。綜士郎も一度訪れてみたい街だ。神籠は海外渡航を禁じられているので、かなわぬ話だが。


「御存じなのね」

「ああ、まあ物の本で。すごいな、十年以上も外国にいたのか」

「別にすごくはないわ、慣れるものよ。でも、亮州はいいところよ。舟でどこにでも行けるし、ごはんは美味しいし、景色も良ければ人もいい。知ってる? 霊薬譚の舞台も亮州なんですって」

「俺はあの話は荒唐無稽過ぎて好かん」

「ふふっ」


 はは、と笑いかけて、綜士郎はふと気付いた。自分の警戒心が緩んでいることに。ふだんはどんな女性の色目にも無関心を貫く綜士郎だが、目の前のこの美女の微笑みは、己の鉄壁の守りを堂々通過できるくらいには魅力的である。


(いかん。ほだされるところだ)


 綜士郎は信念を持って、ありとあらゆる女性を遠ざけている。

 ごほん、と咳ばらいをひとつして。綜士郎の面持ちは、鋭い眼差しを取り戻した。


「で、雑談は終わりか? 俺はばかたれの部下を叱りに行かねばならんのだが」

「あらあら。楽しそうにお話ししてたのに、急に怖い顔になるんだから」


 一呼吸置いて、京華は平静な口調で語りだす。


慶照(けいしょう)十二年、大応連山(だいおうれんざん)少年遺棄事件」

「!」


 京華が口にした言葉に、綜士郎の目つきはさらに鋭くなった。女性の柔らかな声が、暗誦するように続ける。


五瀬県(ごせけん)米山(よねやま)で、非行を働いていた少年の集団が警察に拘束された。本来留置所へ移送されるところを担当警官の独断により、法に基づかない私的制裁のため、大応連山の山中へ全員が遺棄される。その晩のうちに、少年たちは禍隠に襲撃された。生存者はたった一名」


 美女は妖艶に笑う。


「……それがあなた、藤堂綜士郎」


 それは十二年前の事件である。彼女へじっときつい眼差しを突きつけながら、綜士郎は口を閉ざしている。

 美女は気にせずにんまり笑った。


「ふふ、もっと怖い顔になっちゃった」

「……周到に予習してきたようだな。なんのつもりだ」

「別に、あなただけを調べたわけじゃないわ。神籠に興味があってね。八朔、纐纈(こうけつ)、荒瀬、獺越、香賀瀬……ま、色んな神實に、あなたの香瀬高早神(カゼタカハヤノカミ)生草和呂多神(ウブクサワロタノカミ)といった、神依に力を貸す神なんかもひと通り。当然、現役の神籠に関してもたくさん調べたわ」

「なんのために?」

「私、太華の大学で神籠を研究しているの。博士号も持っているわ。昔から神籠という存在に、特段の興味があってね」


 京華は続けた。


「太華にも道士という存在がいて、昔は神籠のように天変地異のような秘術を使っていたらしいの。けれど今はさっぱり。いまやほとんど祈祷師、占術師みたいなものね。太華だけでなく、現在の世界各国を見ても神籠のような神秘の存在があるのは八洲だけ。ついでに言うと、禍隠の襲撃を受けているのも八洲のみだけど」

「…………」

「私は十二歳の頃から太華で生活してきたわ。祖国に神籠という奇跡の存在がいるなら、興味を抱かないわけにはいかないじゃない? 幸い亮州には大学以外にも大きな書肆があってね、八洲の書籍だけでなく、新聞なんかも手に入った。そこでたくさん現役の神籠について調べた、というわけ」


 美女はつらつら語るが、綜士郎の不審は晴れない。綺麗だがどうにも胡散臭い女である。


「神籠は私にとって憧れよ。研究対象としても、伴侶としても。八洲に帰ったら、絶対に神籠の方と一緒になろうと決めていたの」

「そんなにいいものじゃないぞ、神籠は。外征のない今は、他の兵科に比べて殉職も多い。俺はおすすめしない」

「でも八洲の政府はなるべく神籠の数を増やしたいと思っているわ。現にあなたは今、こうやって結婚を強いられている。ね、神籠の大尉さん」

「ありがた迷惑な話だな」

「ね、あなたが結婚したくないのって、子どもをもうけたくないからでしょ?」


 京華の一言に綜士郎は嘆息した。的確に核心をつく女だ。彼女の言うことは、当たっている。


「……そうだな。まあそれも理由のひとつだ」


 理由のひとつとは言ったが、実のところそれがすべてだった。綜士郎は万が一にも自分の神籠を、後世に残したくはない。だが目の前の彼女にはそれは言わないでおく。そこまで詳らかにしてやる義理はない。


「なんでそう思ったんだ?」

「うーん、なんとなく」


 なんとなくで核心をつくな、という顔の綜士郎である。目の前の彼女は、それならとばかりに提案を述べた。


「でも、そういう理由で結婚を拒んでいるんだったら、私は結構ちょうどいいと思うけれど?」

「なんだ? 子ども嫌いとでも言うのか?」

「私、子どもを作れない体なの」

「はぁ……?」


 綜士郎は唖然とした。そんな重い事実を、あまりにも平然と言うから。


「子どもの頃に高いところから落ちて、打ちどころが悪くてね。医者からも妊娠は望めないと太鼓判を押されてる」

「あんた……」

「どうかしら、お互いに利点があると思うんだけど。私は研究対象として神籠が身近にいれば、それで満足。あなたもお上からの結婚を強制する圧から晴れて解放される。実態は別居婚でも構わないし、あなたが望むなら妻として女の用途に使ってくれても結構よ。どうせ子どもなんかできないんだし。あなたの要望に極力合わせてあげる」

「やめろ」


 それが理路整然とでも言うかのように並べ立てられる京華の言葉を、ひときわ厳しい声で遮って。

 綜士郎は目前の美女を睨みつけている。


「自分を粗末にするようなことを言うな。俺はそういう考えの女とは、絶対に一緒にならん」


 自身の身体を交渉材料にするかのような言い方は、綜士郎の嫌悪するところである。それに、神籠に憧れているから結婚したい、などというのも嘘くさい。研究対象としても、神域の内にいない神籠はただの一般人である。そんな者と日常生活を送って、一体なにを研究すると言うのか。ただ神籠の力を持つ者に近づきたい、そんな意図が、この清澄京華からは感じられる。

 しかし綜士郎の猜疑心に反して、京華は少し驚いたようにきょとんとしている。

 それから美女はちょっと表情を緩めて、最初の柔和な微笑みに戻って言った。


「あなたって、ほんとにいい男なのね。藤堂綜士郎さん」


      ── ── ── ── ── ──


「ひろみさん、おしるこいかがですか?」

「結構です」


 料亭前のおしるこ屋で。街頭販売されているおしるこ椀を、甲精一が藤堂ひろみへ捧げている。しかしひろみはにべもない。

 綜士郎の母はぷいっと精一から視線を逸らすと、地面に正座している美青年へいそいそと歩み寄った。


「まあまあ、あなた綜士郎の部下の方なんですって? やだもうあの子、綺麗な子ばかり部下にしちゃって。おばちゃん妬けちゃうわあ」

「おい、誰もオレが縛られてることに触れる奴はいないのか!」


 ひろみに肩やら腕やらをぺたぺた触られながら、万都里は喚いた。正座させられた状態で、縄で縛り上げられている。京華による犯行らしいが、何がどうしてこうなったのか、あとから戻った五十槻には分からない。精一に尋ねてみたところ、「京華さんすげえわ。俺も二十年後くらいにお願いしたい」という意味不明な発言が返ってきた。

 さて、その精一の目が開いている。五十槻は精一が開眼しているところを初めて見た。まぶたの内側は、ありふれた三白眼である。


「伍長、目が……」

「開いちまうんだよな、これが……素敵な女性に出会うとさ……」


 甲精一に似合わぬ気障な口調である。三白眼は、じっと綜士郎の母に見惚れている。


 五十槻は彼らから視線を外すと、手に持ったおしるこの椀を口許へ近づけた。ずずっとすする汁は、とびきり甘い。騙されてしまった、と五十槻は紫の瞳を傍らの美千流へ向ける。美千流は五十槻の視線に気づくと、「ふんっ」と鼻を鳴らして自身もおしるこをすすった。

 精一も万都里も、誰も五十槻の赤く腫れた頬には触れてこない。なんとなく経緯が分かっているようだ。


──清澄さん、まだ怒ってる。


 甘ったるい小豆の汁を飲みながら、五十槻は考える。どうして彼女を怒らせてしまい、あまつさえ横っ面に一撃食らう事態にまで至ったのか。五十槻は彼女の望み通り、結婚相手として藤堂大尉を紹介しただけだ。彼女が怒っている理由が分からないことには、謝るに謝れない。五十槻はおためごかしの、その場をおさめるためだけの謝罪はしたくない。


「あら、みんなここにいた!」


 柔らかな女性の声が、料亭の方から呼びかけてきた。清澄京華だ。綜士郎の母の話によれば、美千流と選手交代して、綜士郎の見合い相手を務めていたはず。


「お姉さま……その、どうだった?」


 美千流はなんとも言えない表情で、姉を見上げている。まさか、自分の後に姉が見合い相手を務めるとは思っていなかっただろう。京華は溌剌とした笑顔で言った。


「うふふ、振られちゃった!」

「あら残念。あなたみたいな綺麗なお嫁さんが来てくれたら、私も嬉しかったのに」


 あのばかたれ、もったいないわねえとひろみが息巻いている。それに対し旗袍の美女は、「もったいないお言葉ですわ」と上品に返した。


「こら、五十槻!」


 ぷんぷこ怒りながら、藤堂大尉も現れた。


「まったくお前は! 清澄のお嬢さんに迷惑かけやがって!」

「藤堂大尉」

「彼女、なんでここに呼ばれたのかよく分かっていない様子だったぞ。ちゃんと用件を伝えたうえで招いたのか?」

「あ……」


 ここに至って、五十槻はやっと理解した。美千流が手を上げてまで怒った理由を。

 言われてみれば、そういえばちゃんと話していなかった気がする。蚊帳の外の万都里が人知れず、「へっ」と小ばかにしたような薄笑いを浮かべた。

 

「まったく、この大ばかたれ」

「ッ!」

 

 やっと気付いた様子を見せる五十槻へ、綜士郎からごつっと拳骨が落ちてくる。威力はふだん、精一に浴びせられているものの百万分の一ほど。痛みはなかったけれど、藤堂大尉から拳骨を落とされたという事実に五十槻は驚いた。それほどのことをやらかしてしまったのかと。

 はたと焦った面持ちを浮かべる真顔に、令嬢は可愛らしい顔を「むぅ」とこれでもかと顰めている。

 

「ごめんなさい、清澄さん……僕……」

「もうっ、ほんとは自分で気付いてほしかったところですけど!」


 五十槻に謝罪されながら、美千流はキッと咎めるような目線で綜士郎を刺した。振袖の少女の剣幕に、綜士郎は「えぇ……?」と困惑している。もはや完全に敵の扱いである。

 美千流は五十槻へ視線を戻すと、続けた。

 

「まあ、私も先日のあの雰囲気に流されて、ちゃんと確認をしなかったのは良くなかったかもしれないわ。でもね、下手すると人の一生を揺るがしかねない用件なわけでしょ? この方も騙し討ちされたような反応でしたし、きちんと双方納得の上でこういう場を用意していただきたかったですわね!」

「まったくもっておっしゃる通りです」


 美千流の言い分に、五十槻はぐうの音も出ない。「大変な失礼をいたしました」と丁寧に頭を下げ、また一つ五十槻は人生の経験を積んだ。

 同時に、そういえば、と五十槻は思い出す。美千流は今日のこの催しを、別の何かと勘違いしていたようなことを先刻言っていたはずだ。

 

「ところで、清澄さんは今日のことを、何だと思われていたのですか。さきほど何か言いかけておられましたが」

「うっ」


 そこで美千流の顔は途端に赤くなる。本当にどちゃくそ鈍感の朴念仁である。「だからなんでもないわよ!」と片思いの少女は無理矢理話題を終わらせた。


「うふふ、青春ね」


 おっとりと微笑をこぼしながら、京華が美千流の肩をぽんと叩く。


「さ、美千流さん。帰りましょう。きっとおうちではお父さまがカンカンだわ」

「うっ、帰りたくない……」

「大丈夫大丈夫。私、お父さまの汚職の証拠握ってるから」

「お姉さま?」


 不穏な一言を漏らして、京華は綜士郎へひときわ深い笑みを送る。


「それじゃ、私たちはこれで失礼します。また会いましょうね、藤堂さん」

「いーや、あんたと俺は二度と会わん!」

「最後までかたくなな人ね」


 おかしそうに一笑して、京華と美千流は自宅方面へ歩み始める。「帰り馬じゃないんだ」と精一。

 姉妹と軍人たちのすれ違いざま。ふと京華が五十槻の額を、トンと人差し指で小突いた。小さな子どもにするような仕草だ。


「ふふふ。それじゃあね、いっちゃん」

「いっちゃん……?」


 急に妙な愛称で呼ばれたので、五十槻はきょとんとしている。それ以上に過剰反応しているのは、美千流だ。


「ちょ、ちょっとお姉さま! 何ですの急に!」

「うふふふふ!」

「笑ってはぐらかさないでくださいまし! もうっ!」


 黒い旗袍は愉快そうに、振袖の妹を伴いながら人通りの中へ消えて行った。


「はぁ、散々な一日だ……」


 姉妹を見送って、ぐったりしたように綜士郎が言う。そんな彼へ、精一がいつものキツネ顔で声をかけた。


「お疲れ綜ちゃん! 美人姉妹をとっかえひっかえ、羨ましい御身分でございますな!」

「お前か! 五十槻に妙な入れ知恵をしたのは!」

「制作・著作、甲精一!」

「ばかたれ!」


 いつものように拳骨を食らう精一。黒幕に制裁を加えたところで、綜士郎は母親へも責を問うた。


「おふくろもおふくろだ。遠路遥々皇都へ来たと思ったら、息子を騙し討ちしやがって」

「ふん! いつまでも所帯持たないあんたが悪いんじゃない!」

「前から言ってるだろうが! 俺は絶対に結婚せん!」

「もう、綜士郎! 私は……!」


 今度は親子喧嘩が始まった。息子の結婚しない宣言に、母は一瞬言葉を詰まらせた後。


「私は、あんたが明日をも知れない仕事をしてるから……寂しく独り身のままで、死んじゃったらと思うと……」


 母は声を震わせつつ、辛そうに顔を伏せた。その様子に、綜士郎も「おふくろ……」と矛をおさめかける。けれど。


「……やっぱりただ孫の顔が見たいだけだろ」

「当然よ」


 ひろみはけろっとした顔で面を上げた。これがこの親子の、日常のやりとりらしい。げんなりした顔の綜士郎へ、精一が再び声をかけた。


「綜ちゃん、せっかくだからひろみちゃんと水入らずで、吉野で飯食ってきなよ。まだ料理用意してくれるみたいだってさ」

「お前は、いつのまに確認取ってきたんだ?」

「へへっ、未来の奥様と息子に、いいとこ見せなきゃいけないからさぁ……」

「誰が未来の奥様ですか! あなたみたいな不誠実そうな方、私はお断りよ!」

「ひろみちゃんのいけずぅ!」

「人の親を口説くのはやめろ」


 そんな喧噪を、五十槻はぼんやりと眺めている。

 結局、ばかたれ親子は料亭で食事して行くことになった。別れ際、綜士郎が五十槻へ告げる。


「五十槻。お前、今日は宿舎に戻るだろう」

「はい」

「なら、今晩ちょっと話がある。西棟の作戦室へ来なさい」


 大尉は五十槻の背中をばすっと叩き、母を伴って再び料亭へ向かった。了解の返事をして、五十槻はその背を見送る。


──藤堂大尉は、こと今回の件に関してご立腹だ。拳骨まで食らってしまった。きっと今晩待っているのは、お説教だろう。


 けれど五十槻は、藤堂大尉からのお説教なら何時間でも聞けると思った。何も知らない自分に、たくさんのことを教えてほしい。


「いいから誰かオレを助けろよ!」


 少し離れた路上でひとり放置されている万都里が、悲痛な悲鳴を上げた。

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