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10 魔王様、実はデートだったんですってよ

そうして私達はその足で、大通りに面したテラスが美しいカフェレストランにお邪魔することになった。


さすがに外套をまとったままではいられないので、私もリーヴも店先で脱いだのだけれども、まあなんというか予想通りの結果になった。

何がって、リーヴを前にした店員さん達の反応が、である。


長く伸ばされたほうき星のような銀髪に、紫電の瞳。

誰もが見惚れる白皙の美貌に、店員さん達どころか、他のお客さん達もうっとりと見惚れて、感嘆の溜息を吐いていた。

おそらく予約席の扱いであるはずのテラス席に通された時点で色々もうお察しである。

私はもう慣れたものだけれど、やはりリーヴの美貌は、人間にとっては物珍しく見えるものらしい。


「リーヴの服や装飾品を揃えるのもいいわねぇ……」

「え?」


早速運ばれてきた果実水を口に運びつつ呟くと、リーヴはことりと首を傾げた。

ありありとそのかんばせに「なぜ?」と書いて私を見つめてくる彼に、「だって」と私は笑う。


「せっかくあなたはこんなにも綺麗で素敵な男の子なんだもの。ほら、みーんなあなたに見惚れているわ。だったらそんなあなたを飾り立てるのは、権利というよりもむしろ義務と呼ぶべき行為なんじゃないかと思って」


このあとは仕立て屋さんと宝飾品店さんに行ってみようかしら、とあたたかな太陽光が降り注ぐテラス席で、周囲の注目を集めつつ私がこの後の算段をつけていると、リーヴはなぜかなんとも微妙な表情になった。


「注目を集めてるのは俺だけじゃないと思う。むしろティカのほうがよっぽどだろう」

「えっ! 角出てる!? 髪とか目の色、元に戻ってる!?」

「いやそれは大丈夫だけど……そういうことじゃな……いや、まあいいか……自覚がないならそれはそれで都合がいいし……」

「ええ?」

「ティカは気にしなくていい。その分俺が気にするから」

「そ、そう」


いまいちよく解らないがそういうことでいいらしい。

いいのかしら、と思いつつも、結局私は、その後運ばれてきた昼食に気を取られて、それ以上リーヴに問いかけることはなかったのだった。


そうしておいしく昼食をいただき、食後のお茶をそのままテラス席で楽しんでいたところ、ふとこのテラス席からも見える広場に、人だかりができ始めた。

何かしら、と思う間もなく、広場の中心に立派な甲冑をまとった騎士と思われる人間が数人集まり、さらにその周囲に、肌もあらわな女性用の甲冑をまとったうら若き乙女達が何人もはべる。


もしかして大道芸人? ここで演劇でも披露してくれるとか、だろうか。

いやそれにしては随分とものものしい……とカップを片手に見つめる先で、騎士の中でも首領格と思われる人物が声を張り上げた。


「我ら、誉れ高きフェンリル騎士団! 戦乙女たるワルキューレとともに、忌まわしき魔族どもの殲滅を目指す者なり!」


堂々たる名乗りに、周囲の人間たちがわっと歓声を上げる。

私は私でそれを遠目に見つつ、聞き覚えのある名称に「おやまあ」と素直に驚いていた。


フェンリル騎士団とは、アースガルズ国家直属の騎士団の一角であり、先の戦争においては“勇者”がその団長を務めた、人間達にとっては何よりの戦功を立てた騎士達の集まりであるとされる、はずだ。

ちなみにワルキューレとは魔術や武功に秀でた女性が、戦時中優れた斥候として私達魔族側を惑わす役目を担っていた。


ようやく終戦を迎え、騎士団の多くは解散の運びとなったけれど、フェンリル騎士団はアースガルズの勝利の象徴として今もなお存在していると聞く。

なるほどあれが……と素知らぬ顔を装って事の次第を窺い続ける。


フェンリル騎士団の面々が主張するのはこういうことだ。


曰く、いまだ魔族は存在しており、自分達人間はいつまたその脅威にさらされるか解らない。

だからこそ、自分達こそが今度こそ魔族を徹底的に絶滅に追いやってみせる――――という、それはそれはなんとも御大層な演説だった。


ええっと、まさかその魔族の首領である魔王がここで優雅にお茶しています、とは口が裂けても言えない雰囲気である。

まだデザートがきていないけれど、ここはさっさとこの場を退散した方がよさそうだ。


「リーヴ、そろそろ行きましょう……リーヴ? やだ、あなた、酷い顔色よ?」

「だ、いじょ……」

「ぶ、なわけがないわ。食べすぎちゃったのかしら。店を出てどこかで休ませてもらわなきゃ。すみませーん、お会計お願いします!」


真っ青な顔色でかすかに震えているリーヴは、どう見ても大丈夫ではない。尋常ならざる様子である。

手早く会計を済ませた私は、そんな彼を抱えるように寄り添いながら店を後にして、人通りなんてほとんどない、左右にそびえる高い建造物の間の、薄暗い裏道へと足を踏み入れた。


適当に打ち捨てられていた木箱にリーヴを座らせて、その前にしゃがみこみ、そっとその額に手を当てる。


「熱が出たわけではない、わよね。寒気はあるかしら?」

「へ、平気だ、から。だから、もう大丈夫」

「でも……」

「っ大丈夫、なんだ! せっかく、せっかく、ティカと二人きりなのに……!」


驚くほど必死になってそう言ってくれる気持ちは嬉しいけれど、優先すべきはリーヴの体調だ。

けれどこの調子では納得してくれそうにない。

うーん、と首を捻ってから、ぽん、と手を打ち鳴らす。


「だったら、もう一度。もう一度、またお出かけしましょう?」

「……!」

「もちろん、二人っきりで。ほら、約束よ」


リーヴの手を無理矢理取って、その小指に自分の小指を絡ませて、きゅっと握り込む。


「ふふ、本当にデートの約束みたいね」

「…………俺は、ずっと、そのつもりだった」

「あらぁ、それは光栄だこと」


嬉しいわ、と笑いかけると、リーヴもまた、やっと、ぎこちなくだけれど笑い返してくれた。


そう、そのときだ。



「――――――――――ロキ様!!」



無粋な大声が、私達の間に割り込んできた。

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