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僕はもう5年生になったよ~毛皮とヒゲとハゲ~

作者: 音無やんぐ

 亡くなった猫は毛皮を着替えて帰ってくるという。

 でも僕は信じない。


 その子は嵐の夜にひょっこり現れて、家族になった。それで(ラン)と名付けられた。

 それは、長年連れ添ったモタという猫の命日の出来事だった。


 モタは艶やかで真っ黒な毛並みの、身内が言うのもなんだけどとても綺麗な猫だった。

挿絵(By みてみん)

 ランも雨に濡れてびしょびしょだったけど、美しい黒い毛並みだった。

 だからお父さんも妹も、モタが生まれ変わって来てくれたと喜んだ。


 でも僕はモタとランは別々の魂を持っていると思う。生まれ変わりなんて言うと、本当のランのことを無視してるみたいで好きじゃないんだ。

 ランにはランの、命がある。


 ランの額の横には白い星のようなハゲ、じゃくて模様がある。モタにはなかった。

 そんな風に言ってると妹の永愛(とあ)が、


「お兄ちゃん、ランの事嫌いなの?」


と聞いてきた。そんなワケない。ランも大好きだ。家族が言うのもなんだけどとても可愛い。



 モタは僕と同い年。僕が生まれた時に拾われてきた仔だ。そして去年、10歳であっけなく旅立ってしまった。僕はモタの事を妹分のように思っている。向こうは僕を弟分だと思っていたようだけど。

 いつもゆったりと落ち着いていて、とても優しい猫だった。


 小さい頃の僕は泣き虫だった。よくぐずぐずと泣いていると、お母さんが僕の鼻をつまんで拭いてくれた。


「もうお兄ちゃんになるんだから、泣かないの」


 その時お母さんのおなかの中には永愛がいた。今思うとお母さんは、もう知ってたんだと思う。

永愛を生むとすぐに、お母さんは僕たちを置いて死んでしまった。病気だったんだそうだ。

 でもどうしても永愛の顔が見たくて、それで少しの間だけおっぱいをあげて、そしていなくなってしまった。


 お父さんは心配してたみたいだけど、僕はモタがいてくれたおかげであまり泣かなかった。

 そして僕は5年生になった。モタもいなくなってしまったけど、もう泣かない。お母さんとの約束だから。

 永愛には決して寂しい思いをさせない。


 でも時々、お母さんやモタと遊んでいる夢を見ることがある。そんな時は決まってランが僕の胸の上に乗っている。そして僕の鼻を両手の肉球でぎゅっと押さえつけて、ぐしぐしとやって起こしてくれる。

 まるで泣くなと言っているみたいに。


 お母さんが、こっそり額の横に少し白髪があるのを気にしていたのを、僕は知ってる。

挿絵(By みてみん)

『僕』の家族に対する気持ち、とりわけ『お母さん』に対する想いを読み取っていただけたら嬉しいです。

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