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革命のアルランドラ  作者: 姉川京
第1章「黄金の銃弾」
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第3話「アルランドラ閣下」

「国家憲兵隊の……司令官!?」


「ああ、よろしく」


 青年の隣に座っている憲兵は、ロナンディア軍の権力者であった。そんな人間が何故目の前にいる?何故昨日、あの場所へ現れた?ニコの脳裏に様々な疑問が浮かんだが、ひとまず目の前に差し出された手をそのままにもできず、ニコも手を差し出し、二人は握手を交わした。その時、ニコはハッとした。以前読んだ新聞の中に、戦争に勝利したことを伝える記事で彼の名前を目にしたことがあった。


(……そうだ!聞いたことあると思ったら、新聞に載ってた名前だ)


「……マグリーク戦争」


「ん?」


「マグリーク戦争に勝利した記事であなたの名前が載ってました!お会いできて光栄です!」


マグリークというのは、北エーリッシアの国である。最北の海域ベルゲ海に浮かぶ島国の一つ。北エーリッシアの中では比較的温暖な国だが、石油や天然ガスなどの資源、農業などが盛んな国である。その国の領有権を東エーリッシアの軍事大国、ハルバディア大公国と巡って起きた戦争で、見事な勝利を収め、軍の指揮を執ったアルランドラ閣下の名前が大々的に掲載されていたのだ。


「そうか、もう三年前の話になるがな……いや、そんなことより大事な話があるんだ」


「大事な話?……っあ」


話の内容が気になったところで突然、彼のお腹の虫が鳴いた。そういえば朝食を摂っていなかった。すると、レオナルドが何やら大きなカゴを持っていた。


「大丈夫、朝食くらい用意してるよ」


そう言いながらニコッと笑うレオナルド。それに対し、ニコはパッと顔を明るくした。中に入っていたのは生ハム、チーズ、ルッコラ、トマトなど沢山の具材を挟んだパニーニだった。


「うわぁ……美味しそうです!ありがとうございます!」


「まぁ、食べながらでいいから話を聞いてくれないか?」


「分かりました!いただきます!」


ニコは早速パニー二を頬張った。噛んだ瞬間に生ハムのジューシーな旨味、ルッコラのゴマのような香りや苦味、さっぱりとしたオリーブオイル、みずみずしいトマトの味わいが口いっぱいに広がる。ニコはその美味しさに感動した。パニーニはこれまでに何度も食べているのに、ここまで感動することはなかった。具材は変わらないはずなのに、何故こんなに美味しいのだろう。そんなことを考えていると、レオナルドが何か話している事に気づいた。味わうのに夢中でほとんど頭に入ってこなかった。これはまずい。大事な話と言っていた。


「あ、すっ…すみません!美味しくてあまり頭に入ってこなくて……」


「……そうか。口に合ったなら良かったよ。とりあえず、始めから説明させてもらうよ」


「すみません…お願いします」


ニコは謝りながら口の汚れをハンカチで拭いた。


「昨日君を暴行したマフィアたちなんだが、やはりコルッチ一家の準構成員だった」


やっぱりその話か、とニコは真剣な顔つきになり、レオナルドの目を見た。ニコは彼らとは正直もう関わりたくないのだが、気になるところが何点かあるようだ。

 まず、何故自分を暴行したのか。「俺達の仲間に手を出した」と言っていたが、これまでに一度だってマフィアと関わったことがない。

 それから逮捕された後、彼らはどうなったのか。もし彼らが再びニコの前に現れれば、彼はその瞬間に今度こそ死を悟るだろう。


「彼らは君をある人物と間違えたようだ」


やはり人違いだったようだ。まずそこで一安心し、ホッと胸を撫で下ろした。


「ある人物?」


そこでレオナルドはその人物と思わしき写真を差し出した。そこに写っていたのは、ニコと同じく天然パーマのボブヘアで、眼鏡をかけている。更に、顔立ちまでニコそっくりだった。


「彼女がそうだ。名前はアナマリア・ダスカル。魔女だ。君にそっくりでな」


「魔女……ですか」


「そうだ。ハルバディア人なんだが、コルッチ一家の構成員であるマカーリオ・フラカストロが、この女性に呪いをかけられたらしい」


ニコとそっくりなこの女性は、この国の人間ではなかった。しかし、ここまで自分にそっくりな人間が、どうしても自分と無関係とは思えなかった。


「何故ハルバディア人がこの国のマフィアを?」


「おそらくマグリーク戦争が関わっているだろう。その構成員は戦争時、ロナンディア軍に従軍していたんだ。そこで大勢殺して勲章を受けている」


「ま、まさかその殺された中にその女性の家族がいた……とか?」


「いや、それは考えにくい。戦場で人を殺すのは当然のことだからな。それに殺したのは彼と断定することは出来ないだろう?」


「そ、そうですよね……」


今のところロナンディアとハルバディアの接点といえば、マグリーク戦争くらいだろう。もし仮にその男がその魔女の家族を殺していたとしても、恨むべきは個人ではなく戦争そのものとしか言いようがない。


「まぁ、詳しいことは今ウチの諜報機関の者が調査している」


その後は、ジェネトーヴァに向かう車の中でレオナルド、ニコ、チェルソの三人で他愛もない会話を交わした。目的地に到着するまではまだまだ距離も時間もあるが、ニコは微塵も緊張や退屈を感じなかった。


----------------------------


ーー ピサナ州ジェネトーヴァ サン・マリオ・モンティノ教会 午後五時三〇分 ーー

 

 ここは、ピサナ州ジェネトーヴァ県の県都、ジェネトーヴァの市街中心地区、カルフィのサン・マリオ・モンティノ教会である。歴史を感じる古都の中でただ一つ、異彩を放つ荘厳な建築物である。

 セルモンティが教会の前で車を停めると、ニコとレオナルドの二人は車から降りた。何故レオナルドまで降りる必要があるのか、とニコは疑問を抱いた。


「ここまで本当にありがとうございました!……って、アルランドラ閣下もですか?」


車の中で会話をしているうちに、呼び方が“憲兵さん”から“アルランドラ閣下”へ変わっていた。呼びにくいだろうから、とレオナルドが気さくに話すよう提案したが、流石に恐れ多いと感じたようだ。


「あぁ。彼らは逮捕したから大丈夫だとは思うが、万が一のことを考えて……念の為見張っておくよ」


「何から何まで……本当になんとお礼をすれば」


「気にしないでくれ。ほら、そろそろ時間だぞ」


レオナルドはポケットの中の懐中時計を取り出し、針が指している時間を示した。


「わっ、急がないと!」


時間が迫っている事を知ったニコは、教会の入り口へと走っていくのだった。

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