序章「神殺し革命」
未だ、人類や星が誕生する遥か昔、古の神々の時代。ある日突然、世界が分裂した。それぞれの宇宙の中、神は神を生み出し、万物に対し統治する役目を与えた。原初の神は時空神、天空神などを生み出した。そして、天空神は創造神を生んだ。創造神は自身の血液や涙、宇宙の塵より数多の星々を創り出し、息を吹きかけ生物を生み出した。
しかしそれによりその巨大な星々、創造神の力を巡って神々の戦争が始まる。創造神は迫り来る歪な手から逃れるため、獣の神との間に新たな子を生み出した。その神は破壊の役目を与えられ、創り出した星々を破壊し、更には圧倒的な力を持って神々の戦争を終結させた。
それから全宇宙の秩序を保つため、創造神、時空神、季節神、海神、天空神、破壊神、維持神、恋愛神、戦神、智神、伝令神、魔術神、鍛冶神、冥界神、芸術神の計十五柱の神々、“十五神”が決められた。
それから数万年の時が経ち、新たな星“エルグォンド”が生まれる。その星は創造神、海神、天空神の協力で創り出され、時が経つにつれ水にも緑にも恵まれた美しい星となった。
創造神はエルグォンドをいち早く発展させる為、“人類”を生み出した。人類は神の恩恵を多く賜っており、他の生物とは比較にならないほどの高い知能を有していた。それが、人類にとって最初で最大の“道具”であり、また、最悪の“武器”であった。道具で道具を生み出し、武器で武器を生み出した。世界中で文明が発達し、様々なものが発明された。
一方、時には武力をもって領地を奪い合うこともあった。勝つ為には強力な武器が必要であり、これもまた、“武器”から生まれた。争い合う人類。これを防ぐため、各領地を治める“王”が生まれた。
王の権力は子に代々受け継がれ、それは神により授かったものとされた。
王が生まれても、戦争は無くならなかった。遂には、武器は武器のままでしかならなくなった。
それ故かこれを見かねた神々は、結果、エルグォンドの破壊を決断した。しかし、これに反逆する神が現れ、その他の同志達を率いて同じ神々に闘いを挑んだ。結果、創造神やその他の神々、また彼らを守護する天使達の圧倒的な強さの前に敗れ、天界を追放され下界に堕とされた。
それから数千年経つが、未だエルグォンドは破壊されていない。
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時は一八世紀後半。その時代、エルグォンドではロナンディア王国の女性思想家フランカ・アルコラーニが『運命論』で王権神授説を述べた事により、この国を始め世界各国で絶対王政による恐怖の支配が始まった。悪しき国王の支配により、平民は苦しめられ続けた。平民たちは上の身分者たちの暮らしのために、働き続けなければならなかった。
「王権は古の神々より選ばれし者が賜ったものであり、如何なる理由があれど逆らうことは許されない」
「王家は人にあらず、神そのものなり。平民は人、人は獣なり」
これらの言葉が王家を支えており、平民を跪かせていた。王家は自身を神々の末裔だと信じ、それ以外の人間を獣の末裔だと主張した。
それに加え当時エーリッシアの国々は戦争をしており、強い軍隊を作る必要があった。ロナンディアはこの時代より世界でも有数の軍事大国であったが、この時代は一日も油断できなかった。世界四大強国のうちの三ヶ国、ブリガレス連合王国、ハルバディア大公国、千華帝国がいつ戦争を仕掛けてくるか分からないためである。そのため平民の負担は更に増し、上身分者に対する不満は膨らんでいった。
憎しみを増す獣は、毎日のように誰にも気付かれぬよう、密かに爪を研いでいた。しかし、獣は普段爪を隠していた。そのため、それを知っている神は誰一人としていなかった。
そして、過酷な労働により命を落とす者、あるいは自ら断つ者が後を絶たず、更に過酷な状況となり、激怒した国王はあらゆる村、町に王国軍を送り出し、壊滅的な状態まで追い込んだ。神に対しての憎しみは更に増し、それに比例して爪も更に鋭くなっていった。
そしてそれは、ロナンディアのみにとどまらず、オルヴァンス王国、ブリガレス連合王国、グルシカ帝国、そして北エーリッシアのデクレン王国。更にニシア大陸の大白扇帝国、千華帝国、ムバ王国と、エルグォンドの陸地の半分を占める国々で、絶対王政に対し反感を持った獣達が、怒りを隠しつつ爪を研いでいた。
そして遂に国の、更に世界の歴史を変える運命の日がやって来た。平民達が武器を手に取り、主導者を中心に、君主や貴族に対して革命を起こした。獣が神に牙を剥いたのである。革命は各国の首都で起きた。君主は国軍で彼らを迎え撃ったため、彼らの心には絶対的な安心感があった。
“我らには国軍がある。平民ごときに敗れはしない”
しかし、その考えは一気に転覆したーー。
平民には、巨大な後ろ盾があった。その主導者達が常軌を逸した強さを持っており、国軍の中でも絶大な強さを誇る"天騎士"と称される者達を次々と殺害した。平民は国軍を主導者に任せ、自分達は宮殿を襲撃した。君主や貴族達は数で圧倒され、瞬く間に宮殿は制圧された。
その後、各国の王族、皇帝、貴族達は大勢の国民達が見守る中、公開処刑された。
そして、誰もが恐怖の時代は終わったと思い込んでいた。しかし、平和は短かった。その後、世界は再び地獄へと姿を変えていくのであった。