メリー時空のメリーさん
帰宅中だったときの話です。
帰り道で突然、携帯が鳴った。
電話主の番号は…ん? メリーさん?
怪しげな宛名に電話するかを躊躇する。
メリーさん。電話を受け取ったら最後、あなたのうしろにいるという有名な怪談話がある。
十中八九、いたずら電話だ。
無視するのが、得策だが、帰り道というせいなのか、好奇心と暇潰しのために電話を受けてしまった。
「はい」
「あたしメリーさん。今メリーランド州にいるの」
「え? 」ッツゥーッツゥー。
疑問を解決する前に切られた。少女らしい声だった。
メリーランド州って、ワシントンのちょい上のアメリカじゃん。
日本ですらない。
えらく遠いスタートだな。そもそも出落ちかもしれない。すごいいたずらだったな。
そう落着させないように、また電話が鳴った。また奴か。どうやらいたずらは続いているようだ。
「はいはい今度はどこですか? 」
「あたし、メリーさん。今メリーゴーランドにいるの」
ッツゥーッツゥー。
遊園地? どこだよ?
というか、これもしかして。
メリーさん、メリー縛りでやり取りしてる!?
なんとも気合いの入ったいたずらだな。
メリーさんだけにメリー縛りって、小もないな。
寒いのは夏にやってくれ。今は冬なのに。
北国に及びはせずとも、関東圏だって立派に寒い。
今ので、北国レベルに羽上がった。
三度目の電話が鳴る。
「はい」
「あたし、メリーさん。今メモリーにいるの」
ッツゥーッツゥー。
メモリーって…。デジタルの世界かよ。
距離がわからないどころか、距離の概念を無視しやがった。
後、メリー縛り緩くなってませんかね?
四度目の電話が鳴る。
「仏の顔も三度まで」
「………あたし、メリーさん。今メリーポピンズにいるの」
ッツゥーッツゥー。
アイツ、こちらのボケを無視しやがった。
メリーポピンズは1960年代の映画。
内容は話のネダバレになるから言えないね。
以下ネタバレの可能性あり。
って、ネタバレってなんだよバカタレ。
そしてメモリーの伏線なのこれ? 映画の世界にいる、これまた概念系かよ。
五度目の電話が鳴る。
「これいつまで続くの? 」
「後二回。あたし、メリーさん。今メリーバッドエンドにいるの」
ッツゥーッツゥー。
後二回なんだ。
映画終わったのね。
メリーバッドエンドかなぁ?まぁメリーさん的には思うところがあったみたい。
六度目の電話が鳴る。
「あたし、メリーさん。今メリーチョコレートにいるの」
!?
驚いたのは、縁のある言葉だったからだ。
メリーチョコレート。高級チョコレート会社だ。
その本社は、東京都大田区にある。
俺のいる場所に近い。もっと言えば、帰り道の途中を横切るし、もう横切った。
メリーさんは確実に近づいて来ている。
七度目。最後だという電話が鳴る。
付き合ってられるかっ!!
電話を無視して帰りを優先する。
しかしその抵抗は、児戯だと嘲笑うが如く、次の言葉が発せられた。
「あたし、メリーさん。今、12月25日にいるの」
背筋が凍った。冬だからではない。今日が12月25日ということで、彼女がこちら側に来てしまったのだとわかったからだ。
いる。うしろにナニカがいる。
恐怖で凍って動けない。
近づいてくるナニカに恐怖するしかなかった。
耳元に近づいたのを感じる。もう目を瞑る他なかった。
「メリークリスマス」
メリーさんの声だった。それっきり緊張感は無くなった。
うしろを振り向いても誰もいなかった。




