少女期 第五十話
劉備が描く馬車や馬車の部品を見ることになった太守や文官達、兵士達は最初こそ子供のお絵描きぐらいに思っていた。
しかし徐々に増えていく詳細な馬車の絵や馬車の部品を絵を見ていくうちに、これはただの子供のお絵描きではない、本気で交渉を成功させに来た論客の秘策のひとつだと理解していく。
そうして太守達一同の空気が変わっていく感覚を感じ取った劉備が、太守達に説明を始める。
「……よし、図を描いていくのはこれぐらいで良いですかね?」
「……ほう、これは……」
「……こんなに細かい絵を描くとは……」
「驚かれましたか?」
「……うむ、正直に言うが驚いた」
「そうですか、そう言っていただけるのなら気合いを入れて描いた甲斐があったというものです」
「ふむぅ、そうか。では我々も気合いを入れてそなたの頼み事を聞き入れるかどうかを考えていかねばならんな」
「はい、よろしくお願いいたします」
「うむ」
太守の言葉に対して丁寧な返事をして応じた劉備が、なぜ馬車を必要とするのか、馬車をどのように使うようになるとどのような変化が起きるのかの予想を太守達一同に話していった。
「まず馬車を作って使いたいと思うようになった理由ですが、数日前に複数人の村人が流行り病に罹ってしまう、ということがありました」
「ふむぅ、それは大変だったのう」
「はい。それでその時に近くに滞在しているお医者様の元に病人を連れていこうとしたのですが、人数が多かったものでその考えを実行することができなかったのです」
「……ふむぅ……まあ、そういうこともあるだろうな。それで、どのような対処をしたのだ?」
「病人を連れていくのは無理だとなりましたので、お医者様を連れてくることにしたのです」
「ほう、そのように考えたか。なるほどな」
「はい。ですがその時に思ったのです。大勢という無理なことは言わないので、複数人を一度に運べるなにか乗り物がないかと考えまして、それでいろいろな方に話を聞いているうちに馬車を作ってみてはどうだろう? と言われて、部品や本体の作り方を教えてもらいましたもので、それならと思って太守様にお願いしにきたのです」
「……ん? それでお願い? どういうことだ?」
劉備の説明に相槌を打ちながら聞いていた太守が、そこで自身にお願いをしてくる理由がわからないと首を捻っていく。
そんな太守に劉備が、お願いの内容を話していった。
「太守様にお願いしたいことは、馬車を作ることを認めていただきたいことと、作った馬車のことを秘密にしていただきたいこと、この二つになります」
こう話した劉備は、深く頭を下げていく。
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