少女期 第四十話
馬に跨がり、太守の元に向けて出発しようとしていた劉備に、出発前の騒動が気になったらしい張角が声を掛けてくる。
「……なにか騒動が起きていると思って見にきてみれば、その中心にいたのはそなたであったか、劉備よ」
「へ? ああ、これは張角殿、どうかされましたか?」
「いや、なにか揉め事が起きたのかと思ってきただけだから気にすることはない。それよりも劉備よ、馬にのっいるが、そなたどこかに行く気でいるのか?」
「ええ。少し太守様のところまで、急遽お願いしなければいけないことができましたから」
劉備の口から太守の元に向かう、という言葉が出た瞬間、その言葉を聞いた張角がわずかに表情を歪めていく。
そんな自身の変化に気付かなかった劉備に、張角が続けて言葉を掛けていった。
「……そうか、太守のところに行くのか……そうか……」
「うん? 張角殿、どうかしましたか?」
「いや、知り合いが役人の元に向かうと聞くとなぜか体が動かなくなってしまってな、それに加えてどうしようもなく不安になってしまうのだ」
「ああ、私が太守様に捕まってしまうんじゃないかとか、太守様に張角殿達のことを話してしまうんじゃないかとかが不安になってしまうのですね?」
「……不安……そうだな、不安に押し潰されそうになってしまうな……」
「難儀なことですねぇ……ですが安心してください。私が太守様に捕まることはないでしょうし、それ以上に私が太守様に張角殿達のことを話す気はありませんから」
「……うむ……そうか……」
自身の発言を聞いた上での劉備の返答を聞いた張角がなんともいえない表情で言葉を発し、自分自身を無理矢理に納得させていく。
そんな張角を安心させるために劉備は、太守と話すことは馬車に関係することのみ、さらに張角達のことは一切話さないと張角に約束をしていった。
その証として劉備は、村長や周囲の村人達に今から書いていくものを消さないように頼んでから地面に誓いの言葉を書いていく。
「……やっぱり不安ですか?」
「……うむ、劉備のことは信用しているのだが、まだ完璧には、な……」
「……わかりました。それではここで誓いましょう」
「……うん? 誓う? なにをだ?」
「私が太守様に話すことは馬車に関することのみ、さらに張角殿達のことは太守様や兵達には絶対に話さない、と」
「……ふむ」
「それからですね……村長さんに皆さん、今から私がこの地面に書くことを絶対に消さないでくださいね? 絶対ですよ?」
「お、おう」
「わ、わかったぜ」
「ありがとうございます。それでは……」
村長や村人達の返事を聞いた劉備は、地面に張角への誓いの言葉を書いていった。
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