少女期 第三十七話
村長の了承を得た劉備は、すぐに太守のところへ旅立つ準備を始めるため、一度家に帰ることにしていく。
その際に母と話し合いになることはほぼ確実だろうと考えた劉備は、ある程度の問答を想定しながら家に帰っていった。
「ただいま戻りました。母上、いますか?」
「ああ、玄徳! 無事に帰ってきたのね! 心配していたのよ!」
「申し訳ありません。でも無事に帰ってこれました」
「ええ。おかげで安心したわ。これでしばらくはゆっくりできるんでしょう?」
「あ、いえ、それが……」
「……え? まさかまだなにか……?」
劉備の発言に不穏なものを感じた母が、びくびくしながら劉備に尋ねる。
これに劉備は、母に悪いと思いながらも正直にこれからの予定を打ち明けていった。
「……はい。実は今から急いで太守様のところに行かなければいけなくなりました」
「太守様のところに? それはまたどうして?」
「実は今からできる限り急いでとある二つの作業をしなければいけないのですけど、その二つともに太守様の許可が必要になると思うんです。その許可を得るために、どうしても私自身が太守様のところに行かないといけないんです」
「……また新しい作業なの……? それも天の国の技術なのかしら?」
「はい、そうなります」
「……そうですか……う~ん……」
劉備の話を聞いた母はそのような唸り声をあげると、どのような答えを返すかで悩んでいく。
そんな母の答えを劉備は、想定問答のいくつかを頭に思い浮かべながらじっと待つ。
そうして答えを出した母が、口を開いていった。
「……わかりました。行ってきなさい、玄徳」
「……え? 良いのですか、母上?」
想定外の答えを口にした母に、劉備は思わず聞き返す。
そんな劉備に、母はなぜそのような答えを出したかを話していく。
「ええ」
「……その理由は……聞いても大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん」
「……ではお願いします」
「わかったわ。今回お願いしに行くことも村のため、村の皆のため。それから世のため人のため、でしょう? それなら私が反対することはないわ。ひとりの時間は寂しいのだけれどね」
ここまでを話した母は寂しげな笑顔を劉備に見せていった。
これに劉備は申し訳ないと思いながらも、今回の太守へのお願いが終わればゆっくりできるから、と言う言葉を母に掛けていく。
「……申し訳ありません母上。ですが今回、太守様へのお願い事が終わればゆっくりする時間ができるはずです。ですからもう少しだけ待っていてください」
こう話した劉備は丁寧に深く頭を下げたのである。
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