少女期 第二十話
「……仕方がない、か……」
「うん? ということは、どういうことですか?」
「……わかった、案内してやる」
「そうですか! ありがとうございます!」
男の言葉に劉備は喜びながらそのように話していく。
しかし男の方は劉備に対してしっかりと釘を刺してきた。
「ありがとうじゃないぞ? 大賢良師様が君のことを知らなかった時は死ぬんだからな? それを忘れるなよ?」
「わかっていますよ、約束ですからね」
「……わかっているならいい。それじゃあすぐに出発するか?」
劉備に釘を刺せたと、若干不安ながらも判断した男は、劉備達にもう出発してもいいのかと尋ねていく。
この質問に劉備の護衛達は相談してから決めようとした。
しかし劉備自身がすぐに出発すると返答してしまったため、護衛達は混乱することになる。
「……どうする?」
「ここはやっぱり少し相談してから……」
「はい、すぐに出発します」
「よし、わかった。それじゃ行くぞ?」
「なっ⁉」
「いや、ちょっと待って……!」
「わかりました。さあ皆さん、行きましょう」
「いやいや、待て待て!」
「重大なことだぞ⁉ 勝手に決められたら……」
混乱状態になりながらも劉備に文句をぶつけていく護衛達。
そんな護衛達に劉備は即座に説得を行っていく。
「皆さんが慌てる理由はよくわかります。ですが村で私達が大賢良師殿を連れて帰ってくるのを待っている方達のことを考えれば少しでも早く出発した方が良いでしょう?」
「それは……そうかもしれんが……」
「でしょう? だからすぐに出発すると答えたんです」
「……しかし……知らないと言われたら殺されるんだぞ? そのことをちゃんとわかっているのか?」
「わかっています。わかっているからこそすぐに出発すると答えたんです」
「……なに?」
自身の返答を聞いた護衛達がなんとも言えない表情で固まる。
そんな護衛達に、劉備がその理由を話していった。
「大賢良師殿もいい年齢ですし、それになにより忙しい方のようですからね。急がないと私のことを忘れられる可能性がありますからね」
「おいおい……」
「だからすぐに出発すると答えたんです。大賢良師殿が、張角殿が、私のことを忘れてしまう前に到着しなければと思って」
「う~ん……そうか……」
「……わかった。実際はあまりわかりたくはないんだが、まあわかった。わかりたくはないんだが」
「あはは……そうですか……」
護衛達の返答に苦笑いで応じていく劉備。
そんな劉備が、自身達のやり取りを黙って見守っていた男に出発の準備ができたと声を掛けていった。
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