幼少期 第百九十八話
村長の発言を聞いた劉備と母は、顔を見合わせるとほぼ同時にまったく違う返答を行なう。
「本当ですか!? それなら喜んで向かいたいと思います!」
「待ってください村長さん! いくらなんでもそれはちょっと……」
このように劉備はありがたく受けると答え、母は褒美の申し出を断ろうとした。
このため劉備と母は互いに、
「えっ?」
と、このように無意識のうちに合わせて疑問の声をあげ、お互いを見つめあった。
そんな劉備と母に村長が声を掛ける。
主に母の説得のために。
「まあまあ二人とも、突然のことで気が昂っているのはわかるが少し落ち着いて話を聞いてくれないかな?」
「はい、村長さん」
「……わかりました」
「よし。まずは劉備よ、非常に元気の良い返事が聞けて嬉しかった。劉備が太守様の褒美を受けてくれる用意があるとわかってこちらも大変嬉しかった」
「ありがとうございます」
「うむ。そして次に……」
「私、ですね? 村長さん」
「うむ。そなたも色々と心配なことがあるのはわかる。道中無事に行き帰りができるか、太守様に対して劉備が失礼のない振る舞いができるか、どのような褒美を求めるのか……」
「……はい。とりあえずは村長さんが例にあげたものが、今私が考えている不安要素なのですが……」
母はそう話して隣に座っている劉備に目を向けた。
この母に対して劉備も母を見つめ返し、数秒間無言で見つめ合う親子に、一度咳払いを行なってから村長が話し掛けていく。
「ごほん! 話の続きに戻っても良いかな?」
「あ、はい、どうぞ」
「そなたが不安に思っているのはわかる。だが先日我々が向かった時、道中は平和そのものであった。当然野盗や山賊にも襲われていない。それは我々が無事に行き帰りができたことを見ればわかるな?」
「は、はい、それはわかります」
「うむ。だからといって次も襲撃されないとは言えない。しかし襲われる可能性は低いと考えて良いだろう」
「そうですか……」
ここまでの村長の説得を聞いた母の心が揺らぎ始めたと感じた村長がさらに説得を行なう。
「次に劉備が太守様に失礼な態度をしないかについてだが、それについては心配する必要はないだろう」
「……そうでしょうか?」
「うむ。昨年からずっと見てきたが劉備は誰に対しても丁寧な言動を行なっていた。そのような劉備の態度が太守様の前で突然変わるとは思えん。よってこちらも心配する必要はないと思う」
「そうですか、わかりました」
劉備の母の二つ目に不安にも答えた村長は、次で最後の不安も打ち消すと静かに闘志を燃やした。
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