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新訳三國志演義  作者: 篠原2
プロローグ
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プロローグ その一

…一日二話投稿するだけでひいひい言ってるのに何を思ったのか三作品目の投稿が始まりました…。

よろしければご一読下さい…。

その日一人の少女の命が尽きようとしていた。

少女の名は木村優依。

彼女が十三歳の時に発症した重い心臓病で、主治医は最初の診断の時に、


「もって四年の命でしょう…」


と、言われた優依であったが、それでも五年間と主治医の宣告よりも一年長く病と戦った末の事であった。


「…父さん、母さん、ごめんね…。私、もう頑張れない…」


なんとなく、本当になんとなくだが自分が死ぬ、そうわかってしまった優依は泣きながら父と母に謝った。

それでも彼女の闘病生活を間近で見ていた父と母は、


「もういい!もういいんだ!お前は頑張り過ぎる位頑張った!だからもう頑張らなくてもいいんだ!」


「ええ、ええ!貴女は頑張った!だからもう頑張らなくていいの!それに…これ以上貴女が苦しむ姿は…もう…」


そう言って父と母は人目も憚らずに大声で泣き始めたのだった。

その様子と言葉から父と母が主治からここ二、三日が…という話しをしたんだ、と優依は悟った。


「…大丈夫だよ、父さん、母さん…。死んでもまた…父さんと母さんの…子供に生まれる事が…出来るかもしれないし…そうでなくても…ライトノベルみたいに…異世界転生とか…出来るかも…しれないし…。だから…心配しないで…?」


自らの死期を悟った優依はベッドの脇に置いてあった彼女のお気に入りのライトノベルの一冊を手に取ると無理に笑って父と母にそう告げたのである。


「…ああ、そうだな…。お前の言うとおりだ…。また俺達の子供に生まれる事だって有るだろうし、異世界に生まれる事も有るだろう」


「ええ、そうね…。貴女ならきっと素晴らしい………来世が……待っているはずだから……」


優依の言葉に父と母が泣きながら答える。

そうしている間にも少女の身体から力が無くなっていく。


「……もう……終わり…みたい……。…だから…父さん……(かず)君…に謝って……ほしい……。…約束…守れなくて……ごめんなさい……って…」


「…わかった、必ず伝える。だから心配するな…」


「…ありが…とう……。……父……さん……母……さ……ん……さよ……な……ら……………」


「……優依?…優依!優依!!!」


「先生、優依は!?」


問われた主治医が優依の脈を調べ、その他様々な検査を終わらせた主治医が無言で首を横に振る。

その仕草で全てを悟った優依の両親は膝から崩れ落ち涙が涸れるまで泣き続けたのだった。

木村優依、享年、十八歳。




----------




「…う、んん…。………あ…れ…?ここ、どこ…?私は…?生きてるの…?」


確かに死んだはずの自分が何故か目を覚ました事に混乱し辺りを見回す優依。

そして見回して見た世界は何も無い真っ白な空間が広がるばかり。

彼女の混乱は深まりある一言が彼女の口から発せられた。


「……天国?」


「そうではないのぉ」


優依の放った天国という言葉に何者かの返答が返ってきた。

驚いた優依は声のした方向に視線を向ける。

するとさっきまで何も無かった空間に地面に座っている一人の老人の姿が優依の目に入ってきた。


「目が醒めたようじゃの、黒田優依」


「…誰ですか貴方?」


何も無い空間に突然現れた事や自分の名前を知っている事、またここがどこなのか等聞きたい事は色々あったが真由の口から出たのは老人の正体についてだった。


「わしは…まぁ有り体に言えば神様じゃな」


「…神様?」


「そうじゃ」


「……はぁ」


「…それほど驚いておらんのぅ…」


「…この世界に神はいないと思っていますから…」


「…ふむ」


自身を神と語った老人になんとも言えない表情を向ける優依。

そんな彼女の心情を理解出来ている神は優依に語り掛ける。


「そなたがその考えに至った理由もわかっておる。じゃがわしはもっと残酷な真実をそなたに告げねばならん」


「もっと残酷な真実…?」


「うむ」


「…それは?」


「…そなたの死が、我等の手違いであったという事じゃ」


「…は?」


告げられた真実を許容出来ずに変な声を上げた優依。

そんな彼女の様子を無視して神は続ける。


「産まれていく者の運命を決める時にの、手違いで十三歳の時に心臓の病気を患う、と書いてしまったのじゃ…」


「……はぁ?」


続く真実の公表に優依の頭の中にある怒りゲージが上昇していく。

そしてトドメの言葉が神の口から放たれる。


「本来なら手違いに気付いた誰かが正しい運命に書き換える。間違った運命は周囲の様々な者達の運命もねじ曲げていくからの。じゃがそなたの運命の手違いには気付く者が誰一人おらんかった。…つまりそなたは苦しまなくてもよい病に苦しみ、死ななくてもよい年齢で死ぬ事になってしまったのじゃ…。すまぬ…」


神が自身達の手違いの全てを語り終えた瞬間、優依のナニかがブツリとキレた。


「…………」


「…む?」


無言で神に近付くとその腕をとり、見事な腕ひしぎ逆十字固めを極めたのである。


「うおあぁぁぁぁぁ!!待て!待て!離せ!!ギブ!!!」


「誰の!せいで!私が!身体も!心も!苦しんだと!思ってる!?」


ミシミシと音を立てる神の腕を一切気にせずに全力で極め続ける優依。

流石に神も焦ってギブ!と叫ぶ。

しかし優依はその叫びも無視した。


「頼む!離せ!悪かったと思ってる!」


「思ってるだけか!!」


「だけじゃない!!だけじゃないから救済措置を考えた!!説明するから離してくれ!!」


その言葉に優依の動きがピタリと止まる。

しかし腕ひしぎ逆十字は極められたままである。


「…救済措置?」


「う、うむ。説明するから離してくれ。頼む」


神の言葉に優依は少し考えた。

そして出した答えを神に告げた。


「腕ひしぎ逆十字は極めたままにしておきます」


「何故!?」


「私が気に入らない救済措置だったらこのまま腕をへし折るためです」


「な…!?」


絶句した神は優依の目を見る。

その目は本気と書いてマジと読む、そんな目をしていると即座に理解した神はすぐに救済措置の内容を優依に説明し始めた。


「ま、まず救済措置は複数ある」


「ふむ」


「一つ目は転生という事象をそなたに教える事じゃ」


「…それだけ?」


「これだけでもかなりの特例なのじゃがな」


「…へぇ~」


再度、ミシミシと音を立てる神の腕。

絶叫しながら神は弁解を始める。


「ま、待て!複数!複数あると言ったじゃろう!?」


「気に入らなかったらへし折るって言った」


「転生の事実を教える事の何が気に入らなかったのじゃ!?」


「今の世の中、転生なんてラノベで腐る程やってるわ!!」


ミシミシという音が徐々に大きくなっていくのを理解した神はすぐに次の救済措置の説明を始めた。


「ふ、二つ目!今までに学び得た知識は全て持ったまま転生先に行ける!更に普通の人間は物を忘れる生き物であるがそなたは一切物忘れをしない頭になる!」


「…え?本当に?」


その言葉を聞いた優依は極めていた腕ひしぎ逆十字の力を弱めた。


「うむ。ただ注意点としては知識が増え続ける為に必要な知識が必要外の知識に押し潰される可能性がある、という事じゃな」


「それは…気を付けます」


「うむ。ところで相談なんじゃが…そろそろ腕を解放してくれんかのう?」


優依の機嫌が良くなったと見た神は関節技を止めてくれるように頼んでみた。

しかし優依は非情であった。


「…まだあるんですよね?救済措置。だから腕は解放しません」


「……はい」


凄まじいプレッシャーと共に放たれた優依の言葉に神はまだ己の腕に平穏な時が訪れないと理解した。

下手をするとこのまま腕をへし折られる可能性すらあると考えた神はさっさと三つ目にして最後の救済措置の説明を開始した。


「三つ目!まぁ…これで最後じゃが…転生先に送る前に一つだけどんな願いでも叶えてやろう!」


「…え?なんでも?」


「うむ」


「…なんでも、ですか…。ちなみにですけど、生き返らせて欲しい、という願いは…蘇生であって転生では無いですから無理ですよね?」


「うむ、その解釈で良い」


「うーん、やっぱりですか…わかりました。…それにしても…なんでも、ですか…。…うーん…どうしようかなぁ…」


そう言って悩み始めた優依に対し早く腕を解放されたい神は色々と願い事の提案を始めたのである。


「不老不死なんかはどうじゃ?定番と言えるがそれだけに利便性は高いぞ?」


これに対する優依の反応は微妙な物だった。


「不老不死ねぇ…それほど興味は無い…かなぁ…」


「む?そうなのか?」


「それに転生なんですよね?」


「うむ、そうじゃ」


「それだと産まれた時から不老って事になって成長出来ないのでは…?」


「…………あ」


「『あ』って…」


慌てた神は迷走を始める。


「うむ、不死は産まれた時からじゃが不老になれる時期はそなたが自由に決められるようにしよう。そうしよう!」


「…うーん…」


「まだ不満があるのかのう?」


「不死を確認するのは簡単なんですけど不老を確認する方法が無いと思って…」


「うーむ…それでは不老の時とそうで無い時の切り替えは何回でも自由に出来る、これでどうじゃ?」


「…うーん…」


「…まだ何かあるのかの?」


「願い事って一つですよね?」


「うむ」


「今の感じだと願い事が一つじゃなくなってませんか?」


「え?……………あ」


「『あ』って…」


「む、むう、ならばどうするか…」


こうして更に迷走を続けようとした神に優依が待ったを掛けた。


「あの、どうしてそんなに不老不死を推してくるんですか?」


「…いや、不老不死を推しているのではなく、ただ早く腕を解放してくれないかな?と、それだけなんじゃが…」


「え?…ああ…」


神が若干目を逸らしながら語った本音に今の状態を再認識した優依は極めていた腕ひしぎ逆十字固めを解くと神の前に正座して静かに一礼をすると同じように神が座るのを待ったのである。


「ふむ…よっと」


そう一声上げると神は優依の目の前に座り、優依の願い事をどうするかの議論を本格的に始めるのだった。


「あらゆる魔法が使える、ではどうか?」


「それだと地球に転生した時に気軽に使えない気がしますね…。ランダムガチャとかは?」


「それだと地球以外のガチャの概念が無い世界に転生した時にも気軽に使えないのではないか?自動翻訳能力、は?」


「日本に転生すると意味が無いですよねぇ…。それに英語と中国語は読み書き出来ますし…」


「…なるほど…むう…」


「うーん…」


こうしてあぁでもないこうでもないと議論を重ねた結果優依が選んだ最後の救済措置は、


「『転生先を三國志の時代(前後二十年)にする』か…。もっと派手なのを選ぶと思っておったがのう…」


「…何か問題が?」


「いえ、ありません」


再び腕ひしぎ逆十字固めを極められる恐怖に襲われた神はこれ以上のツッコミは危険だと判断してすぐに話しを終わらせた。


「ではこれで良いんですね?」


「うむ、転生の事前準備はこれで終了じゃ」


「そうですか…。ではいよいよ?」


「うむ、転生じゃ」


「…はい」


「…気を付けてな」


「はい。…最後に二つ、確認したい事があるんですけど…」


「うん?なんじゃ?」


「まず一つ目なんですけど、歴史の修正力とかってあるんですか?」


「ああ、それか。そんなもん有りはせんから派手に暴れるが良いぞ」


「そうですか…。わかりました。次に、転生先では貴方も他の神も干渉してこないんですよね?」


「うむ、そのとおりじゃ」


「わかりました。それでは行ってきます!」


「うむ!そなたの再びの人生に幸せが満ちる事を願っておるぞ!」


こうして優依は転生先に旅立ち、新たな人生を始めるのだった。

プロローグその2は今日の夜に投稿します。

それからは一日一話投稿にする予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様に「腕ひしぎ逆十字固め」を極めちゃらだめぇぇぇぇ!(笑 ノリの良さとコミカルなテイストに癒されました。
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