尊死
「ありがたや、ありがたや……」
「しゅーくん! だから、わたしを拝むのやめてくれる!? わたしを信仰対象じゃなくて恋愛対象として見てよ!?」
とはいっても、尊いし偉大すぎて俺ごとき凡人が恋愛感情を抱くなんて無理だ。
見ているだけでありがたい。
感謝の気持ちが自然と芽生えてくる。存在自体が尊い。
「……おにぃ……そろそろ、やめてあげたら……?」
「拝むよりも写真集とか買って貢いでいただいたほうがいいんですけどね~」
「写真集なら買ってる」
って、こんなこと本人の前で言ったらキモい気がする。
しかし。
「えぇえっ!? しゅーくん、わたしの写真集買ってくれてるのー!?」
「あ、ああ……」
「見せて!」
「えっ……で、でも……」
「お願い!」
「お、おう……」
そうまで言われては、俺としても断れない。
俺は机の下の引き出しを開けて、写真集を取り出した。
観賞用、保存用(未開封)の二冊だ。
「……おにぃ……」
瑠莉奈から生温かい眼差しを向けられる。
幼馴染だった菜々美の写真集を買ったのは応援の意味があってのことだ!
それ以外の意味はないったらない! 余計な詮索はするな!
「わああ♪ しゅーくん、わたしの写真集買ってくれてたんだぁーーー♪」
さっきは涙ぐんでいた菜々美だが満面の笑みを浮かべた。
ぱぁぁ~♪ っと、幸せオーラを全身から発散させている。
「うわっ、尊い!」
後光どころか全身が輝いて見える。黄金の仏像か!
思わず両手で視界をおおってしまう。
「だから尊いじゃなくて、わたしのこと恋愛対象として見てよ!」
「そんな、畏れ多い……」
「もうっ! しゅーくん重症だよぅー!」
そんなこと言われたって、一般ピープルの俺とトップアイドルの菜々美では住む世界が違いすぎるったら違いすぎる。
こんな状態で俺が菜々美のマネージャーになるだと?
ありえない、ありえなさすぎる。
というか、結婚だなんていうものがハイパーありえない。
「しゅーくんさん、かなり奥手なようですね~」
「……おにぃはこれまで非モテ街道を驀進してきたから……当然、年齢=彼女なし……」
う、うるさいっ。
俺は陰キャで硬派なんだ!
「さっすが、しゅーくん! わたしのためにほかの女を寄せつけなかったんだね! 惚れ直したよーー!」
というより寄りつかなかったのだが。
「大丈夫! これからはわたしがいつでもどこでもイチャラブしてあげるからね! ほらほら、ぎゅ~~~~♪」
そう言いながら菜々美は俺に向かって抱きついてきた。
「ああああああああああああああああ!」
柔らかい! いい匂いがする! クラクラする!
尊死する。尊すぎて死ぬ!
「……あ、うっ………」
俺の意識は尊すぎるあまり遠退いていった……。
尊死エンド……ではなく、まだまだ続きます。