アイドルと家事
「……そんなことでは……おにぃの嫁として認められない……」
「そんなーーーーっ!? ねえねえー! 二三香ちゃんは家事できないよねーーー!?」
どうしても家事をしたくないらしい菜々美は、二三香に助け舟を出そうとしてもらう。
しかし――。
「い、いえっ。その、それなりにはできますけどっ」
「えええーーー!? じゃ、じゃあ、しゅーくんは!?」
「俺もだいたいのことはできるぞ?」
「がーーーーーーーーーーーーーーーーん!?」
芸能に関する能力はあっても生活能力はトコトンない菜々美のようだった。
「……これからは菜々美ちゃんも自立できるようにするべき……」
これからネット配信中心になっていくと収入が落ちていくことも考えられるだろう。
地上波の仕事やライブは儲かるんだろうが、ネットだと人気が出ないとな……。
それに俺のような公認彼氏(?)がいながらの活動となると、以前のような集客力は落ちるはず。
身の丈にあった生活レベルに落としていくことは大事だと思う。
「やだやだやだーーー! これからも高級寿司三昧の生活を送りたいーーー!」
ワガママすぎる。
というか散財体質すぎる。
これでは確かに将来が心配だ。
「菜々美。マンションで瑠莉奈と二三香に家事の練習につきあってもらえばいいんじゃないか。食べるの好きなら、まずは料理から」
「うぐぐ……! じゃあ、スーパーでお刺身を買ってきて食べるーーー!」
寿司と刺身大好き人間だな……。魚を生で食わないとダメなのか。
というか、それじゃぜんぜん料理になってない。
「……とりあえずカレーを教える……」
「じゃ、あたしはスパゲティ」
「菜々美ちゃんは食べる係ーーー!」
ダメだこりゃ。
「というか、しゅーくんに教わるーーー!」
「さすがに俺が菜々美のマンションに出入りするわけにはいかないだろ」
このホテルは今のところマスコミに嗅ぎつけられてないようだが、マンションはおそらく張っているだろう。
……まあ、神寄さんやタマサキプロダクションの人が機材を運んだりしてるからここを特定されるのも時間の問題か。
「むうう~……家事の練習するなら、しゅーくんとイチャラブするほうがインポータントだよーーー!」
なぜ中途半端に英語。
「まあ、イチャラブもいいが、生活力はつけないとダメだぞ。どうせなら菜々美が家事にチャレンジする様子も動画配信すればいいんじゃないか?」
「そんなの放送事故になっちゃうよーーー!? わたしの作った料理って破滅的なんだよーー!? 前にハンバーグ作ってみたらおとーさんとおかーさんが病院に運ばれたんだよーー!?」
そうなのか……。
いったいハンバーグになにを混入させたのだろうか……。
「……それでは、おにぃに手料理を食べさせることは永遠にできない、ということ……菜々美ちゃんは、それでいいの……?」
「むむぅっ!? そ、それはちょっと残念な気がなきにしもあらずーー!」
愕然とした表情になる菜々美。
「……大丈夫。慣れれば楽勝……」
「そうですっ、慣れると楽勝ですっ」
「む、む、むうぅ~……! ふたりがそう言うなら、わかったよー! しゅーくんに命がけで手料理食べてもらうの悪いし、しゅーくんがわたしの料理で死んじゃったら困るし、食べられるレベルの料理を作れるように挑戦するよーーー!」
菜々美はやる気になったようだ。
トップアイドルといっても、これからはいろいろと生活をグレードダウンしていかないといけないだろうし、いい傾向だと思う。
というか高級寿司三昧の生活をしていたら、いくら貯金があっても足りないだろう。
それに、家事練習を通して三人の絆も強まるのはいいと思う。
その間に、俺は芸能界系の仕事を覚えていかないと出しな。
そんなこんなで、珍しく建設的な方向性に進む本日であった――。