常識では測れない存在
「それじゃ、みんな再び席についてー! 最後の締めの挨拶するよーーー!」
菜々美はブンブンと両手を振り回しながら、今日の締めにかかる。
「今日は初めて三人でちゃんとした収録をしたわけだけど本当に楽しかったよーーー! 芸能界に入ってこんなに楽しい番組は初めてだったーーー! やっぱりわたしには理解ある仲間が必要だったんだってわかったよーーー!」
……まあ、やっぱり、そうなのかもしれない。
溜まりにたまったものがあったから、あんな暴走放送事故を起こして爆発炎上したんだろうし。
今回の収録で、三人の相性のよさはわかった。
初めての収録とは思えないくらい息があっていた。
やっぱり、それぞれの関係性があったからこそだと思う。
幼い頃の菜々美を知っている瑠莉奈と、菜々美のファンである二三香。
そして、なによりも――。
「やっぱりしゅーくんの話題を出せるとイキイキできるよー!」
……まぁ、三人に共通しているのは俺の存在ではあるんだよな……。
そういう意味で、ほかの芸能人やアイドルでは瑠莉奈や二三香の代わりは務まらない。
俺のことを知っているからこそ、菜々美の暴走トークについていけるのだ。
「つまり、このグループにとってしゅーくんさんが絶対必要不可欠なんです~♪ なので、みなさん~♪ どうかこれからの動画配信活動と菜々美ちゃんの暴走としゅーくんさんのことを生温かく見守ってあげてくださいね~♪ しゅーくんに殺害予告とか送ってきちゃだめですよ~♪ もうすでに送られてきてますが~♪」
送られてきてるのか……。
「そうだよーーー! これからの菜々美ちゃんのアイドル活動にはしゅーくんが絶対必要不可欠なんだから、みんな妨害しちゃダメだからねーー! メっだよ、メーーッ!」
ある意味、この放送をすることによって菜々美のこれからの活動と俺の存在をも認めさせることもできるのかもしれない。
つまり、炎上を逆手にとったわけだ。
やはり、神寄さんはかなりのやり手だ。
というか、ウルトラCだ。
こんなアクロバティックな騒動の切り抜け方は通常ならありえないだろう。
「菜々美ちゃんは暴走癖がある代わりに、ほかのアイドルにはない突破力がありますからね~♪ なんとかなるというか、なんとかしちゃうんですよ~♪」
まあ、やっぱり、類稀というか唯一無二のアイドルだと思う。
容姿も圧倒的だしな。弱点を補ってあまりある魅力がある。
「つい先日まで芸能界引退一直線だったけど、新たなフロンティアに向かって爆走するからみんなついてきてねーーーー! わたしたちの活動をこれからも応援してねーーー!」
ブンブンと両手を振り乱し、菜々美はファンたちにアピールする。
今回の放送、ファンだけじゃなくてアンチや野次馬的に視聴しにくるユーザーもいるだろう。
そういう人たちすら味方にしてしまう引力が菜々美にはある気がする。
菜々美のこれまでの芸能活動でもアンチがつくことはあったが、それすら取り込んでどんどん人気が出ていったからな……。
やはり菜々美は常識では測れない存在なのだ。
だから、俺みたいな奴に愛を叫んでもアイドル活動は続けられるかもしれない。
普通なら、ありえないことなのだろうが――。
「菜々美ちゃんはこれからも全力全開フルパワーでがんばるからねーーー!」
元気がありあまっているからこそ、ほかの人たちを元気にできる。
アイドルとはそういう存在なのだろう。
改めて、そう思わされた。




