うぇるかむとぅ黒歴史
「みんなー! 後半開始だよー! 次のコーナーはー! 瑠莉奈ちゃん、カモーン!」
「……ん……名づけて『ウェルカムトゥ黒歴史のコーナー』……ほかでもない……瑠理香の兄であり……菜々美ちゃんが愛を叫んだ越草修人の自作小説をもとにしたミニドラマコーナー……」
ぎゃー、来てしまったか、このコーナーが。
なお、事前にこの部分の打ち合わせは俺抜きで行われた。
なので、俺はどういう内容になるのか知らされていない。
「わーい! しゅーくんの黒歴史だぁー♪ 楽しみーーー♪」
めちゃくちゃ喜んでいるナチュラル鬼畜の菜々美である。
「……おにぃの黒歴史を全世界公開放送できることに……妹である瑠理香も喜びに打ち震えている……」
瑠理香の鬼畜度が上昇していっている気がする……。
「あ、あたしも楽しみっ!」
二三香まで……。
「もちろんわたしも楽しみですよ~♪」
あの、神寄さん、放送中なんですが……。
普通にめちゃくちゃ声を出して同意しないでください……。
「……それでは……瑠莉奈が昨日のうちに精選しておいた黒歴史原稿のコピーをみんなに配ってもらう……」
「はい、黒歴史です~♪」
って、神寄さん自ら!
神寄さんはニコニコしながら、三人の前にコピーした原稿を一枚づつ配布していった。
……嫌な汗が出てくる。
処刑を待つ者の気持ちというものは、こういう感じなのだろうか……。
「……それでは、次は配役をする……視聴者のみなさんにわかりやすくするため……キャラ名ではなく役割名にすることにする……」
そこで言葉を切って、溜める瑠莉奈。
いや、溜めなくていいから!
無駄に俺のメンタルを削るのはやめてくれ!
「……それでは、配役を発表する……勇者、菜々美ちゃん……魔法使い、瑠莉奈……武闘家、二三香ちゃん……」
ざっくりしているな。
まあ、キャラ名とかよりもダイレクトに視聴者に伝わるからいいのか……。
「はい、それじゃあ~、みなさん~、準備はいいですか~? 秒読みしますよ~♪ 五秒前~……三、二、一……!」
カウントが終わり、演技がスタートになる。
まずは、菜々美から――。
「俺つえーーーー! 俺最強ぉーーーー! ゆえに俺モテモテーーーー!」
出だしから、ひどい。
……続いて、瑠理香。
「……きゃー、勇者さまかっこいいー……」
いつもより感情はこもっているが、ぜんぜんかっこよく思ってそうにない。
次に、二三香。
「べ、別にあんたのことなんて好きじゃないんだからねっ!」
なんという王道ツンデレヒロイン。むしろ古典的ツンデレヒロイン。
昔の原稿を引っ張り出してきただけに古い、古すぎる。
やっぱりこれ公開処刑だろう。
こんな黒歴史を動画配信されるだなんて……。俺がなにをしたっていうんだ。
「がははははーー! みんな俺のハーレムに入れてやるぞーー♪」
菜々美、迫真の演技である。
ちなみに菜々美はアイドルだけでなくたまに声優もやっていた。
普通に上手い。
「……きゃー、勇者さまのハーレムに入れるなんて嬉しいー…………おにぃ、キモ……」
心の声が台詞に出ちゃってるから!
それに、これは創作だから! 創作にしても、ひどすぎると思うが!
ラノベ作家とか目指さなくてよかった。
いくら小学生の頃に書いたものとはいえ酷すぎる。
「べ、別にあんたのハーレムに入れて嬉しいわけじゃないんだからねっ!」
しかも、ツンデレ台詞がワンパターンだし!
もういろいろな意味で過去の傷がえぐられて辛い。
俺のライフは完全に0である。
「ふうー♪ まあ、こんなところでやめておこっかー♪」
「……それがいい……予想以上にメンタルを消耗する……妹として恥ずかしい……」
「べ、別に面倒だからってわけじゃないんだからねっ!」
二三香だけツンデレモードが続いている……。
まぁ、俺のメンタル的にも辛すぎるからこんなもんでいいか。
というか、いきなりぶっつけ本番で演技をするのはやっぱり難しいのではないだろうか。
あと、脚本が酷すぎる。もうちょっとマシなものにしてほしい。
「しゅーくん、きっとこれで視聴者のみんなに親近感を持ってもらえたよー! よかったね、しゅーくんー!」
むしろキモイ奴扱いされて嫌悪感を持ってもらえた気がする。
つまり、マイナスだ。また怪文書送られてきそう。