狭山茶を飲みながら休憩
※ ※ ※
休憩の間、菜々美たちは神寄さんが用意していた緑茶(埼玉の誇るブランド茶『狭山茶』らしい)で口直しをした。
そして、神寄さんも例の埼玉古墳インスパイア饅頭を食べ始める。
「これはなかなかいけるじゃないですか~♪」
俺もひとついただいて食べてみる。
いったい、どんな味が――。
「……土? 草?」
二三香と同じ感想しか出てこなかった。
「というか、これ、食べても大丈夫なのか?」
「う、うんっ! ちゃんと食べられるもので作ってあるって言ってたからっ!」
ちょっと、いや、かなり心配だ。普通は食べられないもので食べ物は作らないだろう。
その横で神寄さんは埼玉古墳インスパイア饅頭を口に運び続ける。
「もぐもぐもぐ~♪ これは大人の味ってやつですねぇ~♪」
神寄さんはニコニコしながら三個目を食べていた。
この人の味覚はどうなっているんだ。
「まあ、面白い映像になっているのでいいんじゃないでしょうか~♪ なによりも面白いことが正義ですから~♪」
神寄さんも自由すぎるよな……。
普通、アイドルに得体の知れないモノを食べさせるなんてありえないと思うのだが……。
まあ、二三香の友達が作っているものなので、ちゃんと食えるものなのは確かなんだろうが……。 でも、カルチャーショックを覚える味だった。
まだまだ世界には未知の食べ物があるな……。
それが世界の果てではなく身近な埼玉にあるとは思いもしなかったが……。
「逆にこの味を出せるのは貴重だと思いますよ~♪ なにげにこれ高級食材が入ってますしね~♪ わかる人にしかわからない味ですね~♪」
そうなのか? 高級食材が入っているのに、こんなにマズいとは……。
「これからも、ぜひ、この謎和菓子をお願いしたいところですね~♪ 二三香さん、お願いできますか~?」
「いいんですかっ!?」
持ってきた二三香自身も驚いている。
「はい~♪ ありきたりなものを食べるよりも面白い食レポになると思いますしね~♪ いろいろとやらかして謹慎状態みたいな菜々美ちゃんがただ美味しいもの食べているだけじゃ顰蹙買いそうですし~♪」
ある意味、懲罰なのか……。
まあ、今回の放送によって普段は見られないような菜々美たちの表情を見ることができた。
普通、食レポって美味いもの食う番組だからな。激マズグルメを食うアイドルというは新しい。
「ファンにとって、アイドルのさまざまな表情を見られることは大事ですから~♪ むしろ今回の和菓子はとってもナイスアイテムでした~♪」
さすが神寄さん。
アクセス数のためなら手段を選ばない恐ろしいマネージャーだ。
こんなもの体を張ること前提のお笑い芸人がやるものだと思うのだが。
「むうう~……! もっと美味しいもの食べたいよぅ~!」
「……瑠莉奈は、逆に興味が出てきた……今後、どんな未知の和菓子と遭遇ができるのか……チャレンジャー精神が刺激される……」
賛否両論だが、まあ、面白ければいいか。
確かに、芸能人がただ美味いものを食べている番組って面白いと思えないしな。
うやらましいだけだし。
これなら、視聴者も喜ぶかもしれない。
ネット小説で流行っている「ざまぁ」系というやつだ(違う)。
「はい、それじゃ、休憩終了です~! 次のコーナーに入ってください~! なお、実際の中継ではここでCMを入れておきますから~♪」
CMありなのか。
そんなところだけしっかりと地上波の番組っぽくするとは。
意外と本格的なんだな。
「あ、その前にトイレ行ってくるー!」
菜々美は率先してトイレに行っていた。
さすが暴走アイドル。自由すぎる。
「……瑠莉奈も……」
「あ、あたしもっ」
菜々美が率先してトイレに行ったことで、逆に行きやすくなったのかもしれない。
菜々美が自由すぎるおかげで、周りは余計な気を使わなくてよいというメリットがあった。
ともあれ。
トイレ休憩タイムが終わって(ついでに俺も部屋の外のトイレに行った)――番組収録再開となった。