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埼玉しりとり!

「さあ、次はしりとりのコーナーだよー!」


 いきなり、しりとり!

 どういう番組構成だ。


「菜々美ちゃんから始めるねー! じゃー、最初はー……「埼玉古墳」!」


 しかも、さっそく『ん』がついてる!


「……菜々美ちゃんの負け……」

「終わっちゃいましたねっ」

「しまったーー! 埼玉への愛が暴走してしまったーーー!」


 しかし、なぜ埼玉古墳。埼玉なら大丈夫だったのに。なぜ古墳をつけてしまったのか。

 ハニワの呪いなのか?


「このままじゃ終われないー! リベンジターイム!」


 ズビシッと天を指差して、菜々美は仕切り直した。


「今度は、埼玉ー!」


 埼玉からは離れられないらしい。


「あ、できるだけ埼玉ネタでしりとりしてねー! 地名とか人名とかー! わたしたち埼玉出身アイドルだし! それじゃ、次は瑠莉奈ちゃんー! 『ま』だよ埼玉の『ま』ー!」


 アドリブで難易度とローカル度を上げる菜々美。

 無茶ぶりである。


「……松伏(まつぶし)……」


 そんな状況でも瑠莉奈は冷静に応えていた。

 ちなみに松伏は埼玉の町である。ローカルすぎる。これ、視聴者ついていけるのか?


 ともあれ次は、二三香。


「し……志木っ!」


 今度は埼玉の市である。これまたマイナーだが、東京に近いだけ知名度はあるか。

 再び菜々美。


「騎西!」


 さらにマイナーというかマニアックになった!

 かつて埼玉には騎西町という自治体があったのだ。

 上杉謙信に攻め落とされた騎西城があった。今は加須市と合併している。


「……伊奈……」


 再び瑠莉奈は埼玉の町を答える。これもマイナーだが、江戸時代に関東郡代を勤め利根川東遷事業など治水事業で活躍した伊奈忠次の陣屋があったことが町名由来だ。やっぱりマニアックな部類か。


 次は「な」。埼玉縛りとなると、これは難しいかもしれない。


「な、な……」


 二三香は焦ったようだ。


 というか、これはあとになればなるほど難易度が跳ね上がるしマイナーかつマニアックになっていく気がする。


 ある意味、埼玉愛と埼玉知識が試される。


「制限時間は十秒ね!」


 菜々美から新たなルールが決められる。

 って、最初から決めておくべきことだと思うが。自由すぎる。


「な、な、な……」


 二三香、思い浮かばないか?


 『な』なら、長瀞とか飯能(はんのう)市にある名栗(なぐり)渓谷とかあるが、焦っていると浮かばないのかもしれない。


「秒読みはこちらでやります~。五秒前~」


 神寄さんが秒読みを開始する。


「……三、二、一」


 なぜか将棋の秒読みとまったく同じである。

 万事休すかと思われたが――。


「……難波田憲重(なんばたのりしげ)!」


 時間切れ間際で二三香が叫んだ!

 まさかここで戦国武将の名前が出てくるとは!


 解説すると、難波田憲重は戦国時代の武将で、扇谷上杉家に仕えた。


 両上杉家(扇谷上杉家と山内上杉家)と古河公方をまとめて、北条綱成らの籠る河越城を包囲させた立役者だ。


 松山城主(東松山市にある)なども務め、『松山城風流合戦』なんかの逸話でも知られる歌も詠める知勇兼備の武将である。なお、河越城の戦いで古井戸に落ちて亡くなったと伝わっている。


 世間的にはマイナーかもしれないが、埼玉の戦国時代には欠かせない武将だ。

 難波田は『なばた』とも読むとも言われる。


 ……というか、視聴者的にこれ通じるのか!? 

 あまりにも埼玉すぎないか!? 埼玉でも選ばれた埼玉県民しか知らないのでは?


「あとで解説テロップをつければいいでしょう~」


 神寄さんは瞬時に判断していた。

 地域密着すぎるだろう。テレ玉じゃあるまいし。

 というかテレ玉視聴者でも知ってる人限られそう。


「げ、げぇー!?」


 そして、再び菜々美に順番が巡ってきたわけだが、これは難易度が高いかもしれない。

 少なくとも俺はすぐに埼玉的な『げ』を思い浮かばない。


「げ、げ、げー……」


 頭を両手で抱えて考える菜々美。

 これはピンチか!?


「五秒前~」


 神寄さんがニコニコしながら秒読みに入る。


「げ、げー……」


 菜々美は両手で頭を抱えたまま、顔を赤くする。


「……三、二、一」


 迫るタイムリミット。


「元気いっぱい埼玉県民!」


 菜々美は両手をバッと広げて万歳しながら立ち上がる!


「はい、菜々美ちゃん失格です~!」


 ――ドドーン!


 謎の効果音が入り、菜々美の失格が盛大に告げられた。


「わーん! 埼玉愛が暴走しちゃったよぉー!」


 というか、そもそもが無理やりすぎる。

 地名でもなんでもない。


「……勝利……」

「あ、危なかったっ!」


 瑠莉奈と二三香はホッと胸を撫でおろす。

 苦しまぎれの難波田憲重だったが、見事に菜々美を打ち破った。戦国武将つよい。


「ううう、難波田憲重のことは生涯忘れないー! おのれーー! 難波田憲重ぇえーーー!」


 菜々美にとって難波田憲重が不倶戴天の敵みたいになっている。

 ちなみに富士見市に難波田城もあるので、興味がある人は訪れてみてほしい。


「むぅう~……リーダーとして、いきなり多難なスタートだよぉーー……無念なりーーー!」


 本気で悔しがる菜々美。


 埼玉愛が強い菜々美にとって、埼玉しりとりに敗れたことはアイデンティティにかかわることなのかもしれない。


 まあ、普通にしりとりをするより盛りあがったからいいのか……?


 ご当地アイドルとしては、それでいいのかもしれない。

 ちょっと埼玉度が強すぎる気もするが……。


菜々美「埼玉県民のみんなも、埼玉県民以外のみんなも応援してねーーー!」

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