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埼玉男児なら、耐え忍ぶべき

「それじゃー、小学生時代のしゅーくんの小説読むよー! えーと、なになにー? 『俺の強さは宇宙一ぃいいいいい! ゆえに! 俺の周りには次から次へと美少女が寄ってくる! いぃいやっほぉーーーう!』」


 ひどい、ひどすぎる。


「……おにぃの妹であることが恥ずかしい……自害したくなるレベル……」


 俺だって自決したい。自爆スイッチを持っていたら躊躇なく押している。

 なんでいきなりそんなハイテンションな出だしなんだ。


「えへへー♪ 小学生時代のしゅーくんかわいいねー!」


 かわいいか? 痛々しいの間違いだろ?

 少なくとも今の俺はメンタル的に甚大なダメージを負った。


「と、とにかく今ここで読むのはやめてくれ。勘弁してくれ」

「……おにぃ……そんなことで黒歴史小説全世界同時公開放送に耐えられるの……?」


 瑠莉奈からジッと見つめられ、訊ねられる。


「う、うぐぐ……」


 それは確かに厳しい。

 でも、番組のために必要なことなのだ。


 みんなががんばっているのに、俺だけ逃げるだと?

 それはできない。俺は誇り高き坂東武者の末裔だなのだ。


「せめて、俺にみんなが演じるシーンを選ばせてくれ」

「……却下……それだと無難なものをチョイスされかねない……黒歴史が凝縮されている強烈な部分を抜粋しないと……」


 鬼だ。


「……おにぃ……瑠莉奈は心を鬼にして、おにぃの恥を晒す……」


 瑠莉奈は割と鬼畜だよな……。

 妹というものは兄に対して容赦がない。


「しゅーくん! 大丈夫だよ、安心してー! しゅーくんの犠牲は無駄じゃないよー! しゅーくんの尊い犠牲で必ず動画配信を成功させてみせるからねーーー!」


 両手の拳を握り締めて力説する菜々美。不安しかない。


「……おにぃのことは忘れない……ぐっばい、おにぃ……ふぉーえヴぁー、おにぃ……」


 なんで「ヴぁー」だけネイティブな発音なんだ。

 でも、まぁ、明日が収録なんだし、もう決めてしまったことだ。

 今さら変更などできない。


 俺が犠牲になればいいんだよな……。

 埼玉県民には犠牲がつきものなのだ……。


 いつだってどこかから侵略される。従属させられる。ディスられる。

 これまでの埼玉の歴史が物語っている。


 埼玉で生きるとは、厳しいことなのだ。サバイバルなのだ。


「……おにぃ……おにぃも埼玉男児なら、耐え忍ぶべき……」

「ああ……忍城スピリッツでがんばろう……」


 先祖も籠城戦を耐えたしな……。


 そういうわけで、俺は覚悟を決めた。

 もう煮るなり焼くなり水攻めするなりすればいい。


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