試験放送と盾
※ ※ ※
タマサキプロダクションのスタッフによって、ホテルの部屋に動画配信用機材一式が運びこまれた。大手芸能事務所なだけに、見るからに高額な機材だということがわかる。
っていうか、普通、配信に照明とかまで必要なのだろうか。
女優ライトの一種なのだろうか。
まぁ、見た目をなるべく綺麗に映すことは大事だろうからな。アイドルなんだし。
これぐらいやるのは最低限なのかもしれない。
ここはスタジオでもなんでもないんだから。機材でカバーということだろう。
なお、三人の前には長テーブルが置かれて並んで座るかたちだ。
真ん中が菜々美、左が瑠莉奈、右が二三香。
それぞれの前には名前紹介用のボードが置かれている(さすが仕事が早い)。
俺と神寄さんはカメラの左右に立っている状態。
俺が左側、神寄さんが右側。
「さあ準備は万端ですよ~! さっそく試してみましょう~! 打ち合わせどおり進行してください~!」
神寄さんから声がかけられて、試験放送が始まった。
「みなさん、こんにちはー! 玉瀞菜々美ですー! このたびは、わたしの暴走で多くの方にご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでしたー!」
まずは謝罪から入る菜々美。
「そして、しばらく地上波のテレビに出演することは控えてネットでの活動をしていくことになりましたー! こんな状況で厚かましいかもと思いますが、応援してくださるファンや業界の方々の声に応えるため、もう一度チャンスをくださいー!」
いつもはワガママの権化のような菜々美も、しっかりとプロ意識をもって言葉を選んでいた。
「続いて、今回のネット活動をするにあたって、わたしを支えてくれる新しい仲間を紹介します! まずは、瑠莉奈ちゃんからー!」
菜々美に促されて、瑠莉奈が口を開く。
「……越草瑠莉奈です……今、騒動の中心となっている越草修人の妹です……このたびは兄がご迷惑をおかけして大変申し訳ありません……謝罪する……」
いきなり謝罪を始める瑠莉奈。
って、瑠莉奈が謝る必要なんて、まったくないのだが……。
「……神寄さん、この放送、俺も出演してもいいですか?」
俺は小声で神寄さんに訊ねる。
菜々美や瑠莉奈に謝らせておいて、自分だけ安全地帯にいるというのはどうかと思う。
「でも、しゅーくんさんは一般人ですよ~? ここで顔を晒すのはかなりのデメリットになりますが~……?」
それは、まぁ、そうだろう。
だが、菜々美や妹の瑠莉奈や二三香だけを犠牲にしているようなかたちは不本意だ。
「……俺は三人だけを矢面に立たせたくありません」
俺はそう言って、神寄さんをじっと見つめる。
「ふむ~……」
神寄さんは俺の顔を見たまま、考えこむ。
「しゅーくん……」
「……おにぃ……」
「……修人……」
三人も試験放送を中断して、俺と神寄さんのやりとりを注視していた。
「…………わかりました~。しゅーくんさんが、そうおっしゃるのなら~……まあ、我が社としても、そのほうがありがたくもありますしね~……」
渦中の人である俺が出演となれば、視聴数は鰻昇りだろう。
そのぶん、俺もさらにネットで叩かれることになるかもしれないが。
毒食らわば皿までだ。
というか、三人への批判を逸らして俺が少しでも引き受けられればいい。
三人とも、俺の大事な幼馴染であり、妹であり、彼女(?)だからな。
俺は、三人の盾になる。




