マイペースアイドル
「大丈夫だよ、二三香ちゃん! 最初は痛くても慣れるから!」
菜々美が援護射撃をしているが、逆効果な気がする。
……って、本当に物理的な意味で鞭を打たれているのか!?
「……芸能界は恐ろしいところ……」
つぶやく瑠莉奈。
……というか、かわいい妹をこんな世界に入れて大丈夫なのかと今さらながら心配になってきた。
「……でも、楽しそうではある……」
しかし、俺の思う以上に瑠莉奈は肝が据わっていた。
これを「楽しそう」と思う強メンタルとは……。
「まあ、半分くらいは冗談なので~♪ 大船に乗ったつもりでアイドル活動してくれていいですよぉ~♪ 我が社のバックアップは万全です~♪ これでも業界では大手ですからねぇ~♪」
半分くらいが冗談じゃないというのは気になるが……。
でもまぁ、大手なのは間違いない。
俺も芸能界のことはいろいろと検索したりしてたので知っている。
タマサキプロダクションはまごうことなき大手である。
「えへへ♪ ふたりともわたしと一緒にアイドル活動がんばろー♪ わたしひとりだけだったらアイドルやめようかなって思ってたけど、しゅーくんがマネージャーになって瑠莉奈ちゃんと二三香ちゃんが一緒に活動してくれるなら心強いよー!」
「我が社としても菜々美ちゃんがちゃんと活動してくれることは大いなる利益ですし~♪ おふたりが一緒に活動してくれるのなら万々歳です~♪ さあさあ決断してください~♪」
ニコニコしながら迫ってくる神寄さん。
もうこれは俺たちが断るとかできないな……。
というか、俺自身も面白そうだと思ってきてしまっている。
「……瑠莉奈、がんばる……」
「あ、あたしもがんばりますっ!」
「よーし! これでグループ結成だよ! しゅーくんも、わたしたちのこと支えてねーーー!」
一点の曇りもない菜々美のキラキラした瞳。
こんな菜々美の表情を見せられたら、俺ががんばらないという選択肢はない。
「……わかった。みんなのために俺もがんばる」
……はたして、俺なんかがみんなの役に立つことができるのかという心配はある。
でも、三人のためにがんばりたいという思いが勝っている。
「うるわしい青春ですねぇ~♪ 実は前々から菜々美ちゃんには仲間が必要かなと思ってたんですよぉ~♪ 菜々美ちゃんは我が道を行きすぎるマイペースアイドルだったので、同期・先輩・後輩からことごとく嫌われてましたからねぇ~♪」
そうだったのか……。まぁ、そうかもな……。
菜々美はよく言えばマイペース、悪く言えばワガママだもんな。
「むぅう~……だって、わたし、自分の気持ちに嘘はつけないタイプなんだもん!」
開き直る菜々美。
でも、芸能界なんてほかはみんなライバルみたいなものだろうしな。
なかなか気を許せる仲間なんてできないのかもしれない。