お眼鏡にかなう?
………………。
…………。
……。
そして、神寄さんが部屋にやってくる時間になった。
時間は三十分前倒しである。
「菜々美ちゃん、なんですか~。こっちにもスケジュールというものがあるんですよ~……!」
神寄さんは文句を言いながら、部屋に入ってくる。
ちなみに菜々美は「見せたいものがあるので、なるべく早く来てください!」とメッセージを送っていた。
「みんなー! お披露目タイムだよー! はい、ポーズ!」
菜々美が声を張りあげると、先ほど俺に見せたときと同じポーズをとる菜々美。
続いて、瑠莉奈と二三香もビシッとポーズを決めた。
短時間ながら菜々美に鍛えられたふたりからは羞恥心が消えていた。
「…………おお~…………」
それを見た神寄さんはピタリと動きをとめて、三人の姿を見つめる。
そのまま顎に手をあて、なにかを考えるような素振りになった。
それに対して、菜々美たちはポーズをとったまま静止する。
部屋の中に謎の緊張感が満ちていった――。
……なんというプレッシャーだ。
ただこの場にいるだけの俺ですら息苦しくなってくる。
「む、むうぅ……ど、どうですか、神寄さん?」
菜々美が唸りながら神寄さんに訊ねた。
なお、ポーズはしっかり決めたまま口だけ動かしている。
「……そうですね~……うん、まぁ~……いい線いってるんじゃないでしょうかぁ~」
あたかも神寄さんはアイドルオーディションの審査員になったかのような真剣な表情だった。
この人もエキセントリックなだけではないらしい。
プロフェッショナルなのだ。
「……ええと~……この方は~……?」
神寄さんは二三香のほうを見てから菜々美に訊ねる。
「しゅーくんの幼馴染でわたしのファンの戸川二三香ちゃんです!」
「……ほほう~……我が社には今いないタイプですねぇ~……この勝ち気な表情~、いかにも体育会系といった感じ~~……とても、しごきがいがありそうですね~……ふふふふ~♪」
神寄さんは怪しい笑みを浮かべながら、二三香のことをねっとりと睨め回す。
「ひぃいっ!?」
その蛇のような視線とデンジャラスな言動に、二三香は悲鳴を上げた。
「ふふふふふ~♪ そんなに怯えなくてもいいんですよぉ~? 二三香ちゃんのようなかわいい女の子は我が社としてはいつでもウエルカムですから~♪ わたしの愛の鞭を受け入れる覚悟があるならば一流のアイドルになれるように鍛えてあげますよぉ~♪」
愛の鞭が比喩ではなく、物理的な鞭な気がしてならないのだが……。