散策しながら考える過去と未来
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「久しぶりに太陽の光を浴びた気がするな……」
ホテルの外に出た俺は見知らぬ街を歩く。
俺の住んでいる埼玉の田舎と違って、高層ビルが林立する光景は新鮮だ。
少し息苦しくもある。
「……菜々美はこの東京で、ひとり戦い続けてきたんだよな……」
そう思うと、多少の暴走は仕方ないのかもしれない。
……いや、まぁ、暴走しすぎだとは思うが……。
芸能界は煌びやかな世界だが、同時に窮屈なところだというのは昨日今日でもわかった。
それに神寄さんや萌豚社長みたいなエキセントリックな人物だらけだしな……。
並のメンタルでは、この世界で生きていくことは不可能だろう。
エキセントリックじゃないと生き残れなさそうだ。
そういう意味では、菜々美も業界の被害者みたいなものなのかもしれない。
昔はどちらかというとおとなしい性格だったんだからな……。信じがたいことに。
そんなふうに思索に耽りながら、散策を続ける。
見知らぬ街を歩くのはいいものだ。迷う恐れもあるが。
菜々美も、道なき道を進んで迷走した果ての現在かもしれない。
それでもトップアイドルにまで登り詰めたのだから、たいしたものだ。
「……俺なんて将来のことは、ほとんど考えてなかったしなぁ……」
とりあえず大学に進学してから、その先のことを考えようと思っていた。
それが、まぁ、大多数の高校生にとって普通だろう。
菜々美のマネージャーになるなんて、まさしく降って湧いたような話だ。
そもそも、菜々美と再びリアルで会って話す日が来るとは思ってなかったんだしな……。
こうして散策することで考えをまとめることができる。
いい気分転換になっている。
なんだかんだで、菜々美のことを支えるのが俺のやるべきことだろう。
あとは、瑠莉奈たちのこともか。
「まだ時間あるし、軽くコーヒーでも飲んでから帰るか」
チェーン店のコーヒーショップを見つけた俺は、さらに時間を潰すべく入店した。




