対面
※ ※ ※
そんなこんなで、一時間半後――。
ホテル一階にあるカフェでコーヒーを飲みながら俺がひとりで待っていると、エントランスに制服姿の二三香がやってきた。
なんで制服姿。まあ、ほかに着ていく服がなかったのか。ドレスコードとか気にしたのだろうか。
二三香はキョロキョロと落ち着かない様子で、あたりを見回す。
「二三香、こっちだ、こっち!」
「修人!? あんたなんでこんなすごいところにいるの!?」
俺が呼びかけると二三香はホッとしたような表情になるが、すぐに疑問をぶつけてきた。
「いや、まぁ……そりゃ、芸能人が泊まるようなところだからな……俺も驚いたが……」
「あんたまさか菜々美ちゃんと一緒に泊ったの!?」
「声でかい、声」
俺が小声で注意すると、二三香は慌てて自分の唇を手で覆った。
「ご、ごめん……」
まあ、幸い周囲に人はいなかったが……。
「二三香、とりあえず部屋へ案内するから……」
「う、うんっ……」
俺は会計を済ませ(といっても菜々美の持っていたカードなのだが)、二三香を連れてエレベーターに乗った。
なお、ホテル側には俺たちのことは話がいっているらしく、俺たちの動きは黙認されている。
「こんなすごいホテルに初めて来たよ……」
「俺だって、そうだ」
さすがの二三香も萎縮気味である。
体育会系でメンタルが強いといっても高校生だし庶民なのだ。
それが当然の反応だろう。
「ね、ねえっ! 菜々美ちゃんとどんな話すればいいのかな?」
「さあ……まあ、普通に訊かれたことを話せばいいんじゃないか?」
俺としても、どういう展開になるのか予想もつかない。
「憧れの菜々美ちゃんと直接話す機会が来るなんて!」
「握手会とかは行ってなかったのか?」
「い、行ってたけど……でも、それとこれとは次元が違うというか……」
メールでは『菜々美ちゃんに会わせて!』とか『菜々美ちゃんにあたしの愛を伝えたい』とか言ってたのに弱気な……。
「ほら、着いたぞ」
部屋の前までやってきた。
ロックを解除して、中に入る。
「菜々美、二三香を連れてきたぞ」
「お、お邪魔します……」
いつもからは考えられないほどしおらしく二三香が挨拶する。
対する菜々美は――。
「うわーーーー! すごい美人だぁーーーー!」
いきなり二三香を称賛していた。
「へっ? えっ?」
いきなりそんなことを言われるとは思ってなかったのだろう。
二三香は驚いた表情で固まる。
「握手会に何度か来てくれてたよね!?」
「あっ! は、はいっ!」
どうやら覚えていたらしい。
「ありがとー! でも、しゅーくんとはどんな関係!?」
笑顔を見せた菜々美だったが、すぐに嫉妬の表情を浮かべ尋問モードになる。
一瞬で表情が変わるのだから面白い(怖い)。




