お仕置きモード~犠牲になる床~
「ふぅ~……まったく菜々美ちゃんは困ったちゃんですねぇ~……これは……お仕置きモードに入らないといけませんかねぇ~……?」
神寄さんは持っていたカバンを開き、中から鞭(!?)を取りだす。
さらには、アゲハ蝶をイメージしたような仮面(顔の上半分が隠れるような形状)まで取りだし、メガネを外して装着した。
「ひぃい!? ま、待って、神寄さん!?」
「うるさい! この小娘!」
――ピシィイイ!
鞭を手にして立ち上がった神寄さんは、床をしたたかに打ちつける。
床めちゃくちゃ傷ついてる!? ここ俺の部屋なんだが!?
「人が下手に出てればワガママ放題! 芸能界舐めんじゃないわよ! あんたのワガママでどれだけの損失が出てるかわかってんのかぁ!?」
――ビシィイイ!
だからここ俺の部屋ぁ!? また傷がぁぁ!
「でも、だってぇー! そんなこと言っても愛は永久に不滅だもん! お金より愛のほうが大切だもーーーん!」
「あんたが一人前になるまで事務所がどれだけの時間とお金かけたと思ってるのよ!?」
「で、でも、わたし一年目からわりと稼いでたもん!」
「業界の仁義舐めんじゃないわよ!?」
――バシィイイイ!
俺の部屋の床のライフがどんどん減っていく。
……俺の部屋の床は、尊い犠牲になったのだ……。
「……おにぃ……この人たち、すごく迷惑……」
俺も同感だ。
「って、しゅーくん、なんで迷惑そうな顔してるの!? わたしのフィアンセなんだから味方してよ!」
「……え? あ、ああ……菜々美、がんばれー」
「なにその適当な応援!?」
だって、これ、俺の介入できるようなレベルの話じゃないし。
高校生の俺ですら、今回の騒動によって菜々美が事務所に与えた損害はすごいことが想像できる。
「……というより……結婚するって公言したアイドルに需要ってあるの……?」
そして、我が妹はポツリとつぶやいて核心を突いた。
……沈黙が訪れる。
だが、神寄さんの鞭が床を打ちつけて静寂を打ち払った。
意味もなく俺の部屋の床を傷つけないでほしい。
「そう。普通ならアイドル生命は終わったようなものよ。でも、現在、SNSでは歴史に残る放送事故を起こした菜々美ちゃんを応援する流れになっている……」
仮面に覆われた神寄さんの表情は、よくわからない。
淡々と事実を述べている。
……そうか。まぁ、あんなメチャクチャな放送事故、見たことないもんな……。
炎上どころか、大爆発といった感じだ。
「……暴走爆発炎上アイドル……」
瑠莉奈がポツリとつぶやく。
……まぁ、今回は犯罪とか悪いことをして炎上したわけじゃないから、世間の中には面白がるような声もあるのだろう。
「わたしのファンはよく訓練されたファンだから大丈夫だよ! わたしたちの愛を絶対に応援してくれるよ! 絶対に!」
菜々美は自信満々だった。
でも、世の中そううまくいくものだろうか……。
瑠莉奈「……みんな……応援よろしく……」