朝である
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朝である。
菜々美に夜這いをされたりすることなく、俺は無事に今日という日を迎えることができた。
「むうう。すっかり熟睡しちゃったよぅ……! せっかくのチャンスがぁー!」
菜々美は悔しがっているが、俺にとってはそれでいいのだ。これでいいのだ。
「……おにぃ……瑠莉奈も熟睡していた……」
菜々美が本気を出していたら危なかったな……。
これからも油断も隙もあったもんじゃない生活が続きそうだった。
――ヴィイイイン!
そこで菜々美のスマホが震えた。
「むむっ!? 神寄さんからだー!」
菜々美は嫌そうに眉を寄せながらスマホを確認する。
「むむ~……午後二時頃に動画配信に必要な機材を運びこみます。それまで好きにしていていいですよ~。ただし、ホテルからは出ないこと~……って、これじゃ軟禁生活だよぉ! しゅーくんとお外に出たいよぉ! デート! デートぉ!」
荒ぶる菜々美。
しかし、こんな状況じゃ仕方ないだろう。
まだ禊は済んでいないのだ。
こんな状況で外でデートしているところを写真週刊誌にでも撮られたら、さらに炎上だろう。
なので、静かにしているのがいい。
幸い、俺も明日は創立記念日で休みだしな。
――ヴィイイイン!
「げっ、なんだ」
今度は俺のスマホが震える。
確認してみると、二三香からだった。
『修人、今どこいるの? あんたの家にファンが押しかけてきてたわよ! あと写真週刊誌の記者みたいな人たちも! あたしも取材された!』
おいぃ!? なに取材受けてんだよ!
『菜々美ちゃんのファンからあんた向けの不幸の手紙も預かってるわ』
預かるなよ! おまえは俺のマネージャーか!
「ともかく家に押しかけていたファンは追い払ってるから」
俺たちが家を出ているうちに近隣は騒ぎになっていたんだなぁ……。
そう考えると、あのまま家にいなくてよかったとも言える。
まぁ、菜々美が思いっきり俺の本名を叫んでたからな。
ネットの探索力恐るべし。
そのうち卒業アルバムの文集とかも晒されてしまうのだろうか。
俺、なにも悪いことしてないのに……。
「むむむぅ~……凸するなんてわたしのファンとして許されざる行為だよぉー!」
菜々美、おかんむりである。まあ、そうだが……。
そもそも菜々美が俺の名前を公共の電波で高らかに叫んだのが原因なんだよな。
「しゅーくん! その二三香ちゃんって子に詳しく話を訊きたい! あと、しゅーくんとの関係もハッキリさせたい! どうせ午後二時まで暇なんだし、その二三香ちゃんって子にホテルまで来てもらって!」
えぇえ!?
「で、でも、それは……」
「その二三香ちゃんって子、わたしの熱烈なファンなんでしょ? なら、わたしと会えるっていえば来てくれるでしょ? 今日は休みなんだし!」
ま、まぁ……確かに二三香なら来てくれるかもしれないが。
昨夜は抑止力になるかもと期待したが……いざ、このふたりを会わせるとなると……どんな化学変化が起きるのか不安だ。未知数すぎる。
菜々美「朝だよー! 面白かったら評価してねー!」