おやすみ
「むうう~……しゅーくん、ほかの女の子のことよりわたしのことをちゃんと見てよー! わたしとの将来をしっかり考えてよー!」
「まあ、落ち着いてくれ。先走りすぎだって。まだ俺たち十七歳だろ?」
「アイドルの賞味期限的には、もう十七歳だよ!」
やっぱり俺たちと根本的に物事の考え方が違うよな……。
「でも、明るい家族計画……いや、人生設計はするべきだ」
自分でもなに言ってるんだろうって気になるが……。
でも、そういうところはしっかりせねば。
「わたしはいつでも明るい無計画だよ!」
ダメだこりゃ。
やはり菜々美がマイペースすぎるぶん俺がしっかりせねば。
そういう意味では、神寄さんはマネージャーとして適任だったと言えるのかもしれない。
あれぐらいエキセントリックじゃないと、菜々美を御しきれないだろう。俺には無理だ。
「まあ、ともあれ。今日のところは寝よう」
ほんと、今日はいろいろなことがありすぎた。
人生で最も忙しい日だった。
「うん! 寝よう! しゅーくん! 一緒に寝ようー!」
瞳をギラギラと輝かせる菜々美。
まだ今日という危機は継続中だ。身の危険を感じる。
「いや、普通に寝よう。寝込みを襲うのはなしだからな?」
「えええーーー!?」
えええー!? じゃない。
本当に貞操観念がぶっ飛んでいるのか?
「頼むぞ、瑠莉奈。今はおまえだけが頼みだ……」
「……善処する……」
まさか瑠莉奈が一緒に寝ているのに襲いかかってこないだろう。
でも、菜々美だからなぁ……。
「む? なに、しゅーくん。その『こいつは普通じゃないからなぁ』みたいな顔は!」
そのまんまだ。
もう少し常識が通用するような人間になってほしい。
ともあれ、寝る。断固として寝る。
今の俺には睡眠が必要だ。
「……むー。寝不足は美容の大敵だからね! 仕方ないから今夜はおとなしく寝るよー! それじゃ、おやすみー!」
菜々美はそう言うと、ベッドに横になった。
……そして、割とすぐに寝息を立て始めた。
さすが芸能人。オンオフの切り替えが早い。
「……おにぃ……今のうちに瑠莉奈はお風呂に入る……」
「あ、ああ。じゃ、俺は歯を磨く……」
瑠莉奈が風呂に入っている間に歯を磨いた。
その間も、菜々美は寝ているようで変化なし。
「……って、二三香にメッセージ返さないとな」
菜々美も寝ているし、ちょうどいい。
歯を磨き終わった俺は、メッセージを返すことにした。
『ごめん。ちょっと立てこんでて返事できなかった。今度会ったときに説明する』
すぐに二三香からメッセージが来た。
『遅いわよ! 菜々美ちゃんを泣かせたら承知しないからねっ!』
俺が泣きたいぐらいだ。
菜々美はエキセントリックかつ肉食すぎて怖い。
「……おにぃ……瑠莉奈、眠い……」
「……ああ、すまん。もう寝る」
明日という日が平和であってほしい。
俺は三つあるベッドのうち一番左に寝る。
一番右が菜々美だ。そして、瑠莉奈が真ん中へ。
防衛上必要な配置だ。
しかし、高級感あるベッドだな。
フカフカすぎて落ち着かない。異様に心地よい。
心地よすぎて、かえって眠りにくい。
ともあれ、明日が平和であればいいな……。
むしろ、これからが大変な気もするが……。
そんなこんなで俺は長い一日を終えて眠りに落ちていくのだった――。
瑠莉奈「……面白かったら、評価よろしく……」




