リーサルウェポン
――ヴィイイン、ヴィイイン!
「ん? メッセージか」
俺のスマホが震えた。
ちなみにスマホは、部屋の机に置きっぱなしになっていたのだ。
「彼氏のスマホチェーーーック!」
菜々美はいきなりスマホのほうへ駆け寄って手に取る。
「ちょ、待て、菜々美!」
俺にはプライバシーというものは存在しないのか!?
そもそも、まだ彼氏彼女の関係になっていないのでは!
俺の疑問を遥か後方に置き去りにして、菜々美はスマホを高速操作し画面を確認する。
「むむぅ!? こ、これはぁ!?」
驚愕する菜々美。
……えっ。
俺に送られてくるメッセージに驚愕するような内容ってあったっけ……?
メールマガジンとかじゃないのか?
「しゅーくん! この戸川二三香って誰!? 浮気相手!?」
げげぇっ!?
しまった! 菜々美を刺激するような女子と俺はメッセージをやりとりしていた!
「い、いや、その……それは……ただの幼馴染というか腐れ縁というか……」
「なんでわたし以外に幼馴染がいるの!? というか、幼稚園の頃にそんな子いなかったよね!?」
「あ、ああ……えっと、その……小学校から一緒だったというか……」
「ずるい! わたしという将来を誓いあった女の子がいたのに小学生の頃からずっと浮気し続けていただなんて! 許すまじ!」
「ただの幼馴染というか友達だ!」
菜々美の束縛力怖い。けっこうヤンデレでもあるよな、菜々美。
エキセントリックかつヤンデレだなんて厄介な属性だ……。
「本当!? 実はキャッキャウフフしてる関係じゃないのー!?」
「いや、違う。ありえないから。というか、二三香は菜々美の熱烈なファンだぞ!」
「むむ? わたしのファン?」
「ああ! CDは全部買ってるしファンクラブにも入っているらしい! おまえが出演するテレビ番組は欠かさずチェックしてるぐらいだ! メッセージ読んでみろ!」
二三香が俺に送ったメッセージを読ませるのはどうかと思うが、濡れ衣を証明するためにはそれが手っ取り早い。
「むう……じゃ、確認してみる」
菜々美はスマホを操作してメッセージのチェックを開始した。
「むむむ……『菜々美ちゃんが家に来たら会わせて! 握手させて!』……『菜々美ちゃんにあたしの愛を伝えたい』……『菜々美ちゃんは修人よりもあたしと結婚するべき』……」
二三香のやつ、なんというメッセージを送ってるんだ……。
これが熱烈なファン……信者というやつか……。身近にヤバいファンがいた。
「むむぅ~……むむむむ……?」
菜々美も判断に困っているようだ。
「ほら、ただの菜々美のファンだろ?」
「むむぅう~……ただのファンというより熱烈なファンだね……」
嬉しそうというより複雑そうな表情だった。
「嬉しくないのか?」
「だって、わたししゅーくんひとすじだもんっ! あと、熱烈なファンってストーカー化したりして大変なんだよ?」
「そうか……」
まぁ、アイドルならではの苦労があるってわけだな……。
しかし、二三香がここまで熱烈なファンとは……。
あの放送事故によって、二三香までおかしくなってしまったのか。
「……おにぃ……でも、これはいい抑止力になるのでは……?」
さすが優秀な軍師である我が妹。
確かに、今の二三香なら菜々美の暴走をとめられるかもしれない。
毒を以て毒を制すというやつだ。
エキセントリックにはエキセントリックをぶつける。
「むむ? しゅーくん、なにかよからぬこと考えてない?」
「……そ、そんなことはないぞ……」
でも、菜々美と二三香を会わせたら面白いかもな。
対菜々美リーサルウェポンとして活躍してくれるかもしれない。




