以心伝心
「むうぅうぅうぅ……! なら、もっとすごいことをするっ! しゅーくんを絶対に興奮させてみせるーーー!」
菜々美は服を脱ぎ始めた!
いかん。このままでは一気に不健全な展開に!
助けてくれ、瑠莉奈!
「現役トップアイドルに恥をかかせたしゅーくんがいけないんだからね! こうなったら一気に既成事実まで一直線だよーーー!」
菜々美の目が血走っている!
これは人生最大のピンチだ!
しかし、そこでタイミングよくドアが開いた。
「…………呼ばれた気がする…………」
さすが俺の妹! グッジョブ! ナイスタイミング!
「むぅう! 瑠莉奈ちゃん! 今いいところだから外へ行ってて!」
「……でも、誰かが助けを呼ぶ声がした気がする……」
以心伝心ってやつだな。
やはり俺たち兄妹は深いところで繋がっているようだ。
「ま、まぁ、とにかく落ち着いてくれ、瑠莉奈……」
「落ち着いてなんかいられないよ! アイドルとして自信喪失だよ!」
どうやら今回のことで菜々美のアイドルとしてのプライドをひどく傷つけてしまったらしい。
しかし、まぁ……菜々美には色気的なものはないのかもしれない。
超絶美少女ではあるのだが、非現実的すぎるというか、尊すぎるというか。
「……瑠莉奈、お邪魔……?」
首を傾げながら訊ねてくる。
「い、いや、瑠莉奈は邪魔じゃない。むしろ救世主だ。部屋にいてくれ!」
ここで瑠莉奈に再び外へ行かれたら、どうなるかわかったものじゃない。
いくところまでいってしまいかねない(不健全的な意味で)。
「しゅーくん! 覚悟が足らないよ!」
「いや、菜々美がぶっ飛びすぎなんだって!」
本当にエキセントリックアイドルだよな……。
テレビ越しで見ていてもエキセントリックなことはわかっていたが、実際に接すると想像以上だった。この菜々美を制御するとなると、神寄さんみたいな人じゃないと無理なのはわかる。
「しゅーくんの意気地なし! 甲斐性なし! 根性なし!」
実際にそうなので、俺として反論できない。
「……ん……おにぃは意気地なしで甲斐性なし……妹として長年そばで見てきた瑠莉奈が保証する……」
さすが俺の妹。容赦がない。
だが、今の俺を救ってくれるのは瑠莉奈しかいないのだ。
「むうぅ……それじゃ、今日のところはこんなものにしておくよ! まだまだこれからしゅーくんを落とす機会はいっぱいあるしー!」
ホテル暮らしは続く。
つまり、その間、俺は常に菜々美から襲いかかられるリスクがあるというわけだ。
滞在中、枕を高くして眠れる日はなさそうだな……。
というか、寝ている間に既成事実を作られる可能性もあるのでは……。怖い。
「……おにぃ……やはり瑠莉奈は……この世界を健全に保つ使命がある気がする……」
さすがは優秀な我が妹。自らの使命に気がつくとは。
こんなに心強い存在はない。
「むうぅ……やっぱり、しゅーくんはシスコンだよぉ……あとなんだかんだいって瑠莉奈ちゃんはブラコンだよぉ……!」
それは、そうかもしれない。
俺も瑠莉奈も友達がいないタイプだしな。
特に瑠莉奈は学校では一言もしゃべらないらしいから、意外と基本的に会話していないことになる。そう考えると、俺たちは普通の兄妹よりよほど仲がいいと言えるだろう。
「むうぅ……身近なところに思わぬ強敵が……」
そして、俺にとっては身近なところに思わぬ味方がいたわけだ。
妹は素晴らしい。




