リアクションが足りない!
「むうぅ……」
菜々美も同じくプレッシャーを感じているのか、動きが止まる。
俺たちはつい目と鼻の先の距離で睨みあうことになった。
「よーし! いくよ! しゅーくん! 菜々美ちゃんフルパワーーー!」
菜々美は気合いを入れると、俺に向かって再接近。
そのままブチューッと唇と唇があわさった!
「むちゅうう!」
「んむむぅ……」
なんかキスをしているというより唇をぶつけあう競技をしているみたいな気分だ。
感動とか感慨とかない。ムードもへったくれもない。
菜々美は現実離れした美しさと常人離れしたエキセントリックさなので現実感がないというか……。ドール相手にキスしているような感じかもしれない。あるいはアニメキャラ。
「……むむぅ?」
菜々美は俺の反応に対して怪訝な表情を浮かべる。
対する俺は虚無の表情で、ただキスを受け入れ続ける。
菜々美は少し顔を離して口を開いた。
「むううっ……! しゅーくん、わたしとキスできて嬉しくないのっ!?」
「……い、いや……嬉しくないわけではないんだけど……なんというか、その……現実感がないというか……」
「なにそれ!」
自分で言っていてもよくわからないが、実際にそうなのだから仕方がない。
「現役トップアイドルからのキスなのに! しゅーくん! ここは泣いて喜ぶべきだところだよ!」
そうなのかもしれないが、やっぱり現実感がないんだよなぁ……。
「もうこれ台なしだよ! ドラマだったら絶対にリテイクだよ! とういうわけで、もう一回キス! しゅーくん! いくよー!」
「お、おう……」
やはりこれではムードもなにもあったものじゃない。
ある程度、恥じらいとか、羞恥心とか、そういうものがないとダメなのかもしれない。
「むちゅうう~!」
「……んむむ……」
再び重ねあわせられる唇。
しかし、今度も感慨はない。
というか、仕切り直したぶん、より白けているというかなんというか……。
「……むむむ?」
菜々美は薄目をあけて、こちらの反応をうかがう。
「……むぅう……やっぱり、しゅーくん、リアクションが物足りないよぉ……!」
と言われてもなぁ……。
いや、まぁ、現役トップアイドルの菜々美から二度もキスされるなんてファンなら血の涙を流してうらやましがるところなんだろうけど……。
「しゅーくん! 贅沢は敵だよ!」
そうかもしれない。
しかし、実際に感動とか感慨の感情が湧きあがらないのだからしょうがない。
感情はコントロールできるものではないのだから。