想いを伝える
「……あれ?」
意識を取り戻した。
一日に二度も意識不明になるとは……。
今度は三途の川を渡りかけなかったからマシだったのかもしれないが……。
「あ、しゅーくん! 意識が戻ったんだね!」
「な、菜々美っ!?」
ベッドで横になる俺のすぐそばに菜々美がいて、こちらの顔を覗きこんできた。
既視感のある展開だ。
なお、菜々美は服を着ている。俺も着させられたらしい。
「えへへ♪ またしゅーくんと人工呼吸しちゃったー♪」
またか! 寝ている間に毎回唇を奪うのはやめてほしい!
「そして、瑠莉奈ちゃんがいない今こそ最大のチャンス! しゅーくん! 起きている状態でキスしよう! ちゃんと目覚めている状態で初めてのキス!」
菜々美は唇をタコのように突き出しながら俺に迫ってきた。
……まぁ、タコのあれって口じゃないらしいが……。
「ちょ、待っ……」
「しゅーくん! わたしのこと好き? 嫌い?」
菜々美は途中で接近をやめて訊ねてきた。
その瞳は真剣なものだ。
「……しゅーくんがわたしのこと嫌いっていうなら無理強いしないけど……でも、好きなら気持ちを受け入れて!」
「……菜々美……」
ここまで本気で言われたら、逃げるわけにもいかない。
というか、今寝ている俺は逃げることなどできない。
だから……俺はしっかりと答えることにした。
「……好きだ」
確かに菜々美は幼い頃からは考えられないほど変わってしまった。
というか変わり果ててしまった。
美少女アイドルになっただけでなく、性格がエキセントリックになってしまった。
だが、俺への愛はビンビンとフルパワーで伝わってくる。
ここまで愛されているのに、それに応えないのは男として、人間としてどうかと思う。
そして、なによりも菜々美はかわいい。すごく、かわいいのだ。
俺だって、菜々美とキスをしたい。それは偽らざる気持ちである。
エキセントリックではあるけど、ピュアで真っすぐな菜々美のことを俺は大好きなのだ。
「じゃあ!」
「……ああ。オーケーだ」
いよいよ菜々美とキスをする。
失神状態ではなく、ちゃんと意識のある状態で。
「な、なんかドキドキしてきたっ! さっきあんなに濃厚な人工呼吸したのにっ!」
菜々美はそう言って顔を赤らめる。
いったいどんな人工呼吸をしたんだ!?
というか、こんな至近距離でキス待ち状態って、すさまじいレッシャーが!