世界の守護者
でも、わずかに期待する気持ちがなくはない。
もうこれ俺が耐える意味ってあるのだろうか?
ここまで菜々美が俺のことを望んでいるのなら、それに応えてもいいのでは?
……だが、それは健全な関係と言えるのだろうか?
いや、そもそもこの芸能界に健全性を求めるのは間違いないかもしれないが……。
「しゅーくん、お待たせ~♪」
俺が悩んでいる間に脱衣を終えた菜々美が浴室へ入ってきた。
ついそちらに視線を向けるが、水着ではなく完全な全裸だった!
「――っ!?」
慌てて、顔を逸らす。
「あはは♪ しゅーくん♪ じっくり見ていいのに~♪ 本当は見たいんでしょ~?」
それは、まぁ、本心ではそうとも言えるが……。
でも、俺にもプライドというものが……。
あと菜々美のペースに乗ると、歯止めが利かなくなりかねない。
それはやっぱり健全とは言えないだろう。
言わば俺は健全な世界の守護者である。
その俺が崩れたら、いろいろな意味で終わる。
つまり俺は世界の守護者。セカイ系である。
というか、ここでなし崩し的に一線を越えてしまったら特に瑠莉奈からは軽蔑の目で見られ続けるだろう。瑠莉奈から『……おにぃ不潔……近寄らないで……』と言われる未来が見える。
「むうぅぅ~……! しゅーくん、ほかの女の子のこと考えてる顔してる……わたしがせっかく全裸になってしゅーくんを落とそうとしてるのにー……!」
ほかの女の子というか妹だが。
というか俺を攻略対象として見ないでほしい。
「と、ともかく……俺は健全だ」
「む? 意味がわからないよ、しゅーくん」
俺もよくわからない。
「と、ともかく! 風呂は入る。でも、一線は絶対に越えない。オーケー?」
「えー……」
唇を尖らせて不満そうな菜々美。
ほんと、肉食系すぎる。
「菜々美……おまえも清純派アイドルなんだから、少しは自重しろ」
「だから嫌いなの! 自重って言葉! その単語を出されるとむしろ暴走したくなる!」
やれやれ。本当に厄介なアイドルだな……。
というか、俺じゃなかったら、放送禁止レベルのすさまじい展開になっていただろう。
俺が健全の守護神でよかった……。セカイは守られた。
「本当にしゅーくんは難攻不落だよ! これじゃ小田原城か忍城だよ!」
戦国時代好きの菜々美らしい例え方だ。
ちなみに俺の先祖は忍城に仕えていた。
「……水攻めに耐えた先祖を持つ俺は風呂場で負けるわけにはいかない」
「むうう……! 俄然、燃えてきたよ! しゅーくん、覚悟ぉーーー!」
菜々美は俺に向かって襲いかかってきた。こいつは戦闘民族か。
上杉謙信みたいに恐ろしい。