恐るべし高級寿司パワー
……二時間後。
「……うまい、うますぎた……」
俺は人生で初めて回転寿司以外の寿司を食べた。
あまりの美味さに、カルチャーショックを受けた。
俺が今まで食っていた寿司とは、なんだったのか……。
チェーン店の寿司とはレベルというより次元が違う。
鮮度、味、見た目……もうなにもかもが違いすぎて比べるのもおこがましい。
あとは内装や接客からして高級感溢れていて、雰囲気だけでも萎縮してしまった。
だが、菜々美はこういう高級店に通い慣れているのかマイペースで大トロとかウニとかノドグロとかイクラとか頼んでいた。
「……おにぃ……瑠莉奈は芸能界に進む……そして、高級寿司を食べまくる……」
胃袋が陥落した瑠莉奈は、完全に芸能界に心が傾いたようだ。
やはり食い物の威力は大きい。
特に一般大衆である俺たち越草家にとっては絶大だった。
「えへへ~♪ 三人でお寿司楽しかったねぇ~♪ どうだった? しゅーくん♪ お寿司美味しかった?」
「……あ、ああ。信じられないくらいうまかった……」
やっぱり芸能人って、俺たち庶民と食ってるものが違うんだな……。
テレビでたまにやってる庶民が行くようなチェーン店での芸能人の食レポとか、絶対に本心では美味いと思って食ってないだろう……。そう思うぐらいにレベルと次元が違かった。
「しゅーくんに喜んでもらえてよかったよ~♪」
やっぱり菜々美とは住んでいる世界が違うんだよな……。
食の面でも思い知らされた。
「どうしたの、しゅーくん? 浮かない顔して……」
「い、いや……菜々美って、すごい稼いでるんだなって……」
「えへへ~♪ アイドルだからね~♪ でも、お金なんかいくらあってもしゅーくんと一緒にいられなかったら意味がないよー!」
そこまで断言できるほどの価値が自分にあるとは思えないんだが……。
俺にはこの高級寿司に勝てる自信はない。
完全に高級寿司>俺である。
「……おにぃ……この高級寿司のぶん馬車馬のように働くべき……」
……うむ。そういう気にさせられる。
「しゅーくん、ぜんぜん気にしないでいいからね! むしろこれくらいなら毎晩食べてもいいぐらいなんだしー!」
やめて! もう俺のライフは0よ!
金銭感覚が違いすぎる! 恐るべしトップアイドル。
これでは菜々美からのあらゆる要求を拒否できなくなる。
庶民の俺は体で払うしかないレベル。
「……菜々美ちゃん、おにぃのことならもう好きにしていいから……」
さんざん不健全ポイントだなんだと言っていた瑠莉奈だったが、完全に菜々美の味方になった。高級寿司の力すごい。
って、これでは完全に抑止力がなくなってしまう!
「えへへ~♪ お寿司で瑠莉奈ちゃんを味方につけられたのなら安いものだよぅ~♪」
これが財力チートというやつか。
資本主義怖い。
「……高級寿司の力の前に人民は無力……」
そして、妹の前に兄は無力なのだ。
妹より強い兄などいない。
「お寿司でお腹いっぱいになったし、あとはお部屋でゆっくりしよう~♪ しゅーくん♪ いっぱいイチャラブしようね~♪」
身の危険を感じる。
しかし、もう妹の抑止力は期待できない。
俺、無事に明日の朝を迎えられるかな……(童貞的な意味で)。
正直、不安である。
高級寿司をおごってもらったことで、菜々美のことをさらに無下にできなくなったし。