キモホラー~喜劇(ギャグ)というものは、当人たちの真剣(シリアス)さから生まれるのだ~
「…………キモい、キモすぎる……ううん、キモ怖すぎる……キモホラーすぎる……」
瑠莉奈もドン引きしている。
まぁ、確かにホラーだよな……。
これで瑠莉奈も芸能界への興味なんて吹き飛んだろう。
戦慄する俺たち一般ピーポォとは違い神寄さんはいつものニコニコ顔。
菜々美はいたって真剣な表情である。これがプロフェッショナルか。
「も、もう一回! 菜々美ちゃん! ハァハァ! もう一回お願いしますっ! ハァハァハァ!」
そして萌豚社長は鼻呼吸どころか口呼吸するほど息を荒らげながら、さらなる罵倒をリクエストして菜々美に近づく。
「……む、むうぅ……」
さすがの菜々美もあとずさった。
「菜々美ちゃん~? 逃げちゃダメですよぉ~?」
しかし、後ろから神寄さんが低い声で押しとどめる。
顔は笑顔なのに声だけ怖いのは、なかなかのホラーだ。
前門のキモオタ社長、後門の鬼畜マネージャー。
……嫌な進退の窮まり方だな……。
客観的に見ている俺はそんなふうに思えるが、本人たちは至って真面目である。本気である。真剣である。
喜劇というものは、当人たちの真剣さから生まれるのだ。
「ハァハァハァハァ! 菜々美ちゃん! 早くぅ~! ハァハァハァハァ!」
萌豚社長は両手をワキワキさせながら、菜々美に近づいていく。
それに対して菜々美は――。
「ち、近寄らないで! このキモブタぁーーーーーーーーーーーーーー!」
迫真の演技――というよりは本心からの罵声を浴びせた。
「ぶっひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーー!」
萌豚社長は衝撃波を受けたかのように吹っ飛んでいた。
なんなんだこの人は。リアクション芸人か。
「あっ! ご、ごめんなさい、つい!」
菜々美は慌てたように萌豚社長に謝まろうとする。
しかし――。
「菜々美ちゃんに本気で罵ってもらえるの最高だよぉーー! ハフハフハフぅううう!」
萌豚社長は大満足といった表情で床をゴロゴロのたうち回っていた。
……ダメだこの人。かなりの重症だ……。
「……やっぱり芸能界は……異次元の世界……」
瑠莉奈も改めて戦慄している。
「うふふ~♪ 萌豚社長に喜んでいただけて、よかったです~♪」
こんな異次元空間においても、神寄さんは如才ない笑みを浮かべていた。
「うん、うんっ! 最っ高だよぉ♪ 清純派トップアイドルの菜々美ちゃんからここまで全力で罵ってもらえるなんてぇ! あの怯えと蔑みの混ざった瞳と声! これだけで十年はオカズに困らないよぅ~!」
なんて気持ちの悪いドМなんだ。
「……おにぃのキモさとは次元が違う……瑠莉奈は世間を知らなさすぎた……」
こんなことで瑠莉奈に世間の広さを知ってほしくはなかったな……。
というか、これは世間というよりアンダーグラウンドな領域だと思うが……。
「さすが萌豚社長さんです~♪ とてもいい趣味をしていらっしゃいます~♪」
神寄さんはニコニコ顔である。営業スマイルなのか、本心なのかわからない。
神寄さんはどう見ても鬼畜ドSだからな。どМの萌豚社長との相性はよさそうだ。
「むうぅ……な、なんだか……汚されたような気分だよぅ……」
菜々美は複雑そうな表情をしていた。
芸能界歴の長い菜々美ですら、今回のことはショッキングだったようだ。
萌豚社長「ハァハァ、お、面白かったら評価してね! ハァハァ!」




